in summer


  百合のしずく    そめこ

 百合の花に
 朝露をためて
 あなたのまぶたの上に
 一滴二滴たらせば
 眠っているあなたは目覚めて
 最初に見た私のことを
 好きだと言ってくれるだろうか
  あさのふたり     いく

 サラリと髪を撫でるしぐさに
 朝の光と風がからみつく
 指の間から笑顔がのぞく

 あなたもまた短い髪をかきあげた
 早起きの小鳥の鳴く音がした
  ビーカーの夏     そめこ

 ビーカーの中には
 夏がたっぷり入っていて

 虫取りあみ一滴
 麦わら帽子一滴
 浜辺にたたずみ一滴
 木陰に寝そべり一滴

 そうやって飲んでいくうちに
 いつの間にか
 ビーカーの中の夏は
 なくなってしまった
 あの青い青い液体
 炭酸の味
  伸びた芝生      いく

 刈り取られることのない芝生に
 ごろんと寝そべってみた
 ふかふかだよ、君もやらないか
 それから、雲と遊ぼうよ
 それとも、君と話そうか
  
  逆天に沈む    そめこ

 この世界を逆さまにしたら
 あの空は深い海になる

 鉄の魚を追いかける
 一直線の白い波
 降り立つことのできない
 ぽっかり浮かぶ
 水蒸気の島々

 夜になれば
 足下にカシオペア
 星々をすくいあげる北斗七星
 輝く満月はタイムホール
 見上げれば
 天上で街の光が
 星のように瞬きしていた
 血液のように車が流れ
 サーチライトが私を照らす

 ああ
 私の体は
 逆天に沈む
 なんて心地よい海
  スマイル        いく

 あなたを描いた
 目の前にいるかのように
 細かく描いてみた
 でも笑顔にするのが難しい
 心をこめて最後に目を描いた
 そしたら急に心がスマイルした
 遠くのあなたがスマイルした
  たましいのカタチ  そめこ

 君のたましいのカタチ
 砂浜にうち寄せる波と同じ
 浜茄子を揺らす風と同じ
 青空にわき上がる入道雲と同じ
  白い雲       いく

 駆け上がる雲
 私をずぶぬれにして
 てっぺん目指して

 駆け上がる雲
 私を包み込み
 かなたを目指して
  母が教えたまいし歌   そめこ

 母は私の手をひきながら
 買い物かごを手に提げて
 まだあの頃はとても若々しく
 つないだ手は柔らかく
 私の小さな手を包んで
 黄昏の中で優しげに
 赤い花
 白い花
 あの人にあげようと
 愛おしそうに歌っていた

 今 私がその歌を
 誰かのために歌っている
  君は風      いく
 
 風はこずえを揺らし
 木々を波打たせ
 森を動かす

 風は鳥達を異国へ導き
 雲に命を与え
 星のまたたきを誘う

 そしていつか自身も
 すべてを乗り越え
 未だ見ぬ世界に
 上昇
 旅立つ