目次へ

____森のうた____


   いまだこもりて


友が訪ねてくると気もそぞろ

枯れた草原に緑のペンキ
ぶちまける

ほら
こんなに暖かだよ
ほんとだよ

ほらほら
見て

ずっと

ずっと

見えるでしょ

ほらね

2006/4/25


   なごりゆき


もうすぐ春だよ
それでもなごりゆき
やさしくなく吹きすさぶ

忘れそうなのに
半端な粒が頬にぶつかる
もうぐちゃぐちゃ

それでも
もうすぐ春だよ

2006/3/30


  たわごと


影のわずかの移ろいは
時が流れたからでなく
迷いが少し晴れたから

気のめいる話

森の住人たちに聞かれたら
木漏れ日の束で押しやられ
さっさと帰れと笑われる

そんなちっぽけな話

散歩に出ようか
見晴らしの好い丘の上まで

2005/8/28


 太陽と森


うららかな日差しは
速度を上げて
海抜ゼロに向かう
曖昧な語り掛けに
耳を傾けず
夜に向かう

暖かさを失った森は
風をまとった奇想曲で
悲しく強がる

このまま夜が明けないこと
きっと知らないで

2005/5/16


 雪消


恋しいのは
森のかけら
恋焦がれるのは
君の心のかけら
雪消の流れは
速く冷たく

2005/4/11


 静寂


時は止まり
深海に眠る
懐中時計
でも
歌は聞こえて
波は満ちて
月の欠片
飛び散る
屈折の光が沈んでも
ねじを巻くには
少し弱すぎ

2005/3/15


 響く歌 


透き通ったその声は
嘘だらけの夜に染み込んで
凍えて動かない影を
やさしく淡く包み込んだ

電気仕掛けのストーブじゃ
肌が乾いていくだけだった

こんな日は
朝の日差しの前に
薄い月が昇ること
その声に教えよう

2005/3/13


 蒼い雨


あなたの見ている景色は
瞼を閉じるとそこにはないこと
知らなかったでしょ
私は知っていたよ
影は私の瞼をこじ開けて
なんども確認させたんだ
私だけしか知らない
あなたの見えていない
虚を

2005/2/26



 あした


何もなかったように
いつものように
きみは
曇りかけのガラスに
雪だらけのガラスに
雫を映すこともなく

ただ
森の光の中に
あしたを見つけようと
目を凝らしていた

2005/1/30


 たまゆら


追い駆けて
それでも粉雪は優しくなくて
たまゆらの人

烏帽子のように降り積もった雪を
いたずらに壊しながら
境い目のなくなった世界
たまゆらの君

2005/1/28


 冷たい手


バケツに入れた冷たい水に
遠くも眺めないで
誰のことも想わないで
かさかさになった手を浸した

寒い朝
ぴたりとも動かない
赤くなっていく
意識が遠のく
誰のことも想い出せない

2004/12/25


 槌音


大地の歪みに鳥は
あかねに鳴き消え
大地の怒りに虫は
葉陰に隠れ消えた
だが人は弱く叫び
槌を持ち土に向い
眠る為の板を並べ
明日昇る日を待つ

2004/11/8


 風のうたた寝


息を潜めた風に気づくほど
肌をさらしてはいないけど
柱時計で高いびきのそれには
いささか困り果て
ぜんまいのねじを巻く

2004/10/14


 風の歴史


颯颯と耳にからまり消えた風
次に逢うのはいつだろうか
あしたか
あさってか
数千年先か
刹那に悲しみ
刹那に憂い
僕は生きている

2004/10/11


 秋の雨


秋の澄んだ空を横切った雨は
忘れた原野の
踏み潰され
枯れた花に
染み込んだ

涙を汗と言い張った男の頬にも
頬に手を当て想う女の瞼にも
冷たくなった雨は染み込んだ

2004/10/8


 静かな森


すべてを見透かすような
澄んだ瞳に映っているのは
深い森に落ちる木漏れ日だけ

太古の森が繰り返し朽ちて
ここに静寂を返してくれた

苔の下の歴史を知らずとも
ろ過された空気を吸う

そしてまた
木漏れ日が瞳にかぶさった

2004/10/6


 しじまの風


すこし風が吹いた
止まり木がかたむいた
それでも眠りは深くて
友の鳴き声すら知らなかった

2004/10/5


 夏の空


ほんとのこと
なにも知らない

のどが渇いたことや
ガラスが溶けたこと

はっきりわかっているのは
それがまだあるということ

2004/8/20


 降臨


水面を覆う朝もやだけと知りながら
誰かに呼ばれた気がして振り返る
桂の木の根元から湧いた泉は
杉の林を滑り落ち、また
岩の間に伏せ消える

2004/7/26


 風の原


雨上がりの草の原に
涼しげな風が吹き遊び
翠影の上で宙返りをする

人影は途絶えて久しく
名残の香り水も今は消え

ただ陽に任せて伸びた香草だけが
かつての風景をわずかに映しだし
碧空の上で散らばった

もどらぬものたち

そして私もまた
もどらぬもの

2004/6/13


  円舞曲


 今夜もこの森の深い霧の中で
 仮面をつけた紳士淑女達が
 おぼろの月に惑わされ
 円舞の曲で時をきざむ

 それは泡や影のよう
 それは夢鏡をさまようよう

 それは不機嫌な鹿が駆け出し
 浅く刺す光を破るまでの束の間

 おどり
 よいしれ
 ねむる

2004/5/11


  川の中


 私の目の上を
 羽を怪我したかげろうが
 あえぎながら流れていく
 私は思わず頬ばった
 あなたの忠告も聞かないで

2004/4/4


  保持


 未来の中に用意された椅子に座ると
 私はわたしでなくなってしまい
 大声でさけんでいる
 陽の光がまぶしい
 するとくちかけた言葉たちは
 まるで小鳥の群れが飛立つかのように
 ばさばさと生き返る

2004/3/31


  林


 また降った雪の林に放り出されて
 私の関節たちは慌てふためき
 あるいはもがき
 細胞レベルの記憶をたどる
 細い枝を支えにして
 ずぼずぼと落ちても
 それはそれで

2004/3/26


  知識


 何も知らない

 知識のすべては柱時計と
 池の見える景色だけだ

 だけど動く仕組みを知らない
 その深ささえ知らない

 歯車をひとつ池の中に投げてみる
 それは音もなく緑の淵へ消えていった

 時は止まり
 波も止まった

 私は岸に立ち
 水の鏡をのぞき見る

 もうひとつ歯車を投げてみた

2004/3/19


  猫の目線

 誰かが忘れた
 チェックの傘が転がる床に
 ドアが開くたび
 さらりと雪が忍び込む

2004/3/17


  未成熟な帰路


 私はまるで列車の行き先を
 知らないかのような顔で
 網棚の荷物の重さも忘れ
 欠けた林檎を転がしていた

2004/3/17


  早春


 忘れたくない風景は消えた
 ひとみの奥に焼きついたのは
 悲しい別れの人
 憂いの春の桃色の匂い
 百千鳥

 私にできること

 忘れないで
 海見つめ
 星見つめ

2004/3/13


  未知の大地


 想い出を語りつくしたとき
 あなたの髪の飾りの輝きが
 仮に曇ったとしても
 それはほんの少しの時間だけ

 染めた空の星に化けた夜光虫が
 あなたの瞳に入り込み
 仮に反射したとしても
 誰もそのありのままを責めはしない

 ただひとりの人ゆえ
 崖のふちに立てば唇ふるえ
 波に目やれば足元すくむ

 未知の大地を進め
 ただひとりの人よ

2004/3/4


  遠くの今日


 風がくるくるまわってる

 動けない私をいたわっているのか
 動けと囃し立てているのか

 話さない私が気がかりなのか
 話せない私をあざけているのか

 笑わない私に興味を持ったのか
 笑えない私をいぶかしがっているのか

 それとも
 風はきのうの私か

2004/3/4


  岩屋


 寒い寒い夜
 怖れと安らぎが交錯する

 それはそれは遥かの昔から

 折れ曲がり
 折れ曲がり

 消えろ消えろと掃き祈る
 現れ出でよと念祈る

 たとえ神がいなくとも

2004/2/28


   雪の町


 大粒の雪がかぶさり
 小さな足跡を消して行く

 どこから来たのかわからなくなる

 マネキンは質問に答えてくれないし
 やせた犬は眠ってしまった
 傘のない女は走り去り 
 老人は青信号を眺めているだけ

 どこに行こう
 誰も踏んでない真っ白道

2004/2/28


  夕景


 何も考えないまま
 何も知ろうとしないまま
 いくつもの街が流れて
 いつもの駅にたどり着いた

 振り返らない
 でも前を見据えもしない
 漫然といつもの景色を
 眺めるだけ

 暮れない空に響く恋歌は
 遥かの悲しみ
 闇を待つ星たちのように
 少し心揺れた

2004/2/22


  未来の記憶


 地下室に足を踏み入れる
 そこには未来の記憶があふれ
 遠い風景が散らばり
 窓ガラスにぶつかり飛んでいた

 小さな窓からの光は丸く
 曇った銀の燭台を照らし
 目覚めぬ影の中の心を包み込んだ

2004/2/20


  今


 ほかのことは考えないようにしていた

 きのう小さな石ころにつまづいたこと
 おととい冷たい雨に打たれたこと
 あした森の中で迷うかもしれないこと
 あさってひとりの夜に涙するかもしれないこと

 今だけでいいって
 それだけで充分生きていけるのだから

2004/2/10


  想い出


 指の間からこぼれ落ちるのは
 計り知れない打ち寄せる波の音

2004/2/10


  テラス


 あなたはいつもここで何を想っていたのか
 そんなあなたをいつから私は想っていたのか

 朝もやの流れが止まり
 陽が暖かな流れをかもす

 あなたは今日もここでたたずむ
 私も今日はここでたたずもう

03/11/4


  雪待月


 今夜はとても寒くて寂しい夜です
 灰色の雲に見え隠れする君がいます
 私は暖かな布団に包まっています
 もうすぐ眠らねばいけません
 豆電球が夢に誘ってくれます
 君の夢を見たいと思っています
 目覚めたら一面の雪でしょう
 そして君は薄くなった姿で
 遠くから私に別れを告げるのですね

02/12/03


  途方


 そして私は迷い始めた
 切り株を見ても判らず
 星を見ても判らなくなっていた

 切り立つ岩壁は叫ばず
 その先の空は私より青かった

 枯れ葉の下の虫達は重なり
 すでに丸く静かに春を待っている

 私はさらに迷いながら
 白日に身をさらすのか

02/12/03


  なんにも


 少し冷たくなった風のせい
 街の灯りが揺らめくせい
 それともあなたの愁いのせい
 忘れたはずのあなたと
 なんとなく最後の夜でした

 なんにも語らず
 涙も流さず
 いつものソファーに腰掛けて
 壊れたテレビ見つめてた
 静かに明ける最後の夜でした 

02/09/18


  秋の初めに


 雲、薄く高く
 眉、薄く細く
 姿、薄くおぼろ

 想い、遥か遠く
 乱れ、傷心す

 涙、すでに枯れ
 季節のみ巡り来る

02/09/07


  サイドカー


 そんな名前だったっけ

 耳の底にオレンジが流れ
 瞳の奥には甘いブランデー

 スタンダードの軽い響きに
 ぜんぶ忘れたのかもしれないのに
 みどりの灯りが今も少しまぶしい

 明後日、あなたは少し遠くへ
 明後日、わたしも少し遠くへ

 サイドカー
 そんな名前だったっけ 

02/09/07


  季節の終わりに


 私が今までいた満たされた部屋で
 学んだことといえば
 あなたの自由を奪い
 あなたを孤独にするという
 ことだけだった

 あなたの沈黙の息づかいを
 心地よいものと理解していた

 私が今いる空っぽの部屋には
 音も無く声もない
 ただキィーンとした空気の中で
 魂が半分の私が机に向かっている

 削げ落ちた頬に甘い夏が
 明日を問い掛けるも
 私は曖昧な答えしか
 導き出せないままだ

 あなたに何を語ろう
 そうだ無口になろう
 半分の私が何を語れよう

 優しさを保てるだろうか

02/08/25


  無言


 釣りあわない言葉で
 岩を雨がたたく

 無意識の内の無言
 そう、沈黙

 灼熱に色あせて
 見つけられない

 無心に打ち寄せる波も
 不意に記憶から消え

 何もかもの過去の存在を
 詩人の言葉でおぎなう

02/08/25


  みどり


 悲しみを忘れた
 妖精達が
 朝露をからませ
 森の静寂を泳ぎだす

 苦しみを蹴飛ばした
 妖精達は
 恋色の葉っぱをまとい
 午後の陽射しをすり抜ける

 やみ雲なのを誇りに思い
 純粋なのをひけらかし

02/08/25


  二度目も雨、でも


 森の美術館で小さな虹が
 私たちを出迎えた

 草のにおいをまとい絵に見入る
 あなたの心が躍っている

 この絵のように時間を止めて
 この絵の人にあなたを重ねる

 ピカソが笑ったのか
 真顔のあなたがほほ笑んだから
 笑顔のあなたの奥を覗き見る

 三度目はきっと木漏れ日の中

02/07/09


  黒百合


 かすかな香り
 気がつけば山深く
 道端にクロユリ
 限りなく黒に近い花を開いて
 それは可憐に私を見つめる
 休み休みの旅の風景

02/07/09


  埋もれる言葉たち


 最後のあがきで音になる言葉たち
 あなたに届くだろうか
 真実の想いが届くだろうか
 砂に埋もれるその前に

02/07/09


  雨の日に逢った人


 今日出逢ったあなたと語る
 うたかたの恋のよう
 雨は今宵止むはずも無く
 あなたの部屋の灯かりに
 誘われるもそれも束の間
 波の音が細い雨に重なる

 まさに束の間
 まさにウタカタ

 また逢うことなどなくていい

 砂に書いたあの文字は
 波に消され
 雨に消され
 涙に消され

02/07/09


  橋


 あの橋を渡ったのはいつだったか
 確かに私の記憶ができる前のこと
 確かに私に名前がつく前のこと
 それは幼い好奇心
 
 小さな庭しか知らない
 小さな空しか見えない

 あの橋を渡ったのはいつだったか

02/07/09


  萌ゆる朝


 夜明け前の霧雨はやみ
 磨かれた緑が踊る

 雲間からの光の束は
 露とたわむれ弾ける

 ねじれた昨日の空気は
 私の視野の底で失せた

 萌える朝を闊歩する

02/07/09


  転生


 今夜生まれ変わります
 あなたがそう言うから
 私もついていくのです

 昨日までを捨てるのではなく
 新しい色彩を知りたいのです

 見たことのない輝きが
 そこにあると信じて
 星空を町から仰ぎます

02/05/12


  木の皮


 生き生きした木ではない
 それは半分雪に埋もれ
 葉も実も虫もなにも無く
 皮だけが張りついている

 人は飢えに耐えられず
 かさかさに乾いた手で
 むしり子の口に向ける
 
 別の人は道の雪を除く
 小麦粉の道を造るため
 子の腹を夢で満たすため
 子の瞳に明日を映すため

 また別の人はただ思う
 いつものようになにもせず
 雪が解けると全てを忘れる、と

02/03/23


  朗報


 明日から良い知らせが届いた
 なにも心配要らないよ、と

 明日は私のしょげた顔を
 どっかで覗き見したようだ

 明日に早速返事を書こう
 あしたになる前に返事を書こう

 とってもうれしかった
 ありがとう見ていてくれて

02/03/23


  曇天


 なにを無くしたのか知らないが
 あそこにはもう残っていない

 白い歩道をひとり
 弾まない音を踏み
 前かがみで襟を立て
 すべてを拒み
 昨日に向かうことはない
 
 曇天の空だから気が滅入る
 すべてはあなたの思い過ごし

02/03/23


  あなたの足を


 今度は必ず虚像ではない
 あなただと信じるために
 その偽りの言葉を
 ロウソクのすすで曇らせよう

 そしてもし許されるなら
 あなたの足を洗おう
 私のくすみは取れなくても
 あなたの足を洗おう

02/01/30


  初冬の一日


 夜が逝き朝が目覚める
 冷たい空気が届くと
 森の静寂の音がした

 朝は足早で昼に流るる
 温かな便りの音がすると
 きのうの笑顔が香った

 昼の輝きは夜を深め
 静かな一編の詩が流れ
 今に酔い
 今のあなたを読む

 そんな一日
 ほかに何もなく

02/01/30


  しんしんと


 いさぎよい寒さに肌をさらす
 忘れられたキャベツ畑が凍って
 冷たい道がガタガタと笑う
 澄んだ瞳の女と夢を見ると
 言葉がしんしんと膝まで積もり
 かすむ街には辿りつけそうにない

01/12/12


  錯誤


 何をすればいいのかわからなくなって
 夏から伸ばした髪を切った

 何をすればいいのかわからなくなって
 夕日に長く伸びる影を切った

 何をすればいいのかわからなくなって
 夢を繋いでいた電話の線を切った

 それでも答えは見つからず
 ばらばらの今日を引っ付けながら
 私はまた詩を書き始める

01/12/12


  まるで映画のような


 まるで映画だといって
 口を真一文字にむすんだ
 そして壊れ
 そして争い
 そして逃げ出し
 そして苦しむ

 こんど耳にする時は
 まるで映画のような恋、がいい
 そんな素敵なたとえがいい

01/12/03


  愁いの中


 弦が切れたことを隠し
 奏で続けた

 うまく誤魔化したのか
 だれも聴いていないのか

 どちらでもいい

 悲しいのは
 ただ
 争いがある事実と
 優しさがない事実

01/12/03


  雪の前に


 落葉松の森が知らぬ間に黄金

 遠くで冷たい風が遊び
 枯れた葉を引っ張っている

 もうすぐ冬
       きっと長い冬

 肩をすぼめ君の声を聴く
 小さく木霊する
 君の声を聴く

 埋もれよう
 降り積もる前に
 温かな土の中に

01/11/01


  けっとばそ


 くやしさけっとばして
 夢、おっかけてたら
 あしたがね
 きっと
 くっきりしてくるよ

01/11/01


  凍えるような水


 雪が舞いそうな午後
 白い息に向かって
 川の水がはね
 私は冷たくて痛くて
 でも温まるにも火はなく
 告げるにも人は居ず

 ただ雲が切れるのを待つ
 秋もただなかのせせらぎ

01/11/01


  かすりきず


 貶めたりしたことないか
 まして争いが始まっている中で
 まして小さなかすり傷
 なにをためらう
 ばんそうこうを借りてこい

01/11/01


  物語のあらすじ


 強さに欠けていて
 勇気が足りなくて
 だからそのまま後戻りできなくて
 どうしようもなく
 コーヒーカップの口紅も
 拭うことさえ出来なかった
 確かに大人になりきれなかっただけなのだろう
 お金の問題ではないことなんて
 わかっていても
 赤いタイトに足を通すことなど二度とない
 消えることさえ出来ないままの私

 寒い寒い冬がくる前にと思い
 新しい物語を読み始めた
 それはそれは悲しい別れの話

01/10/15


  秋の一日


 生きることについていつまでも
 考えていたら日が暮れてしまった
 この続きは明日にしようとしても
 夕食がまだできていないから
 寝るにも寝れない
 ただウイスキーだけでも
 いいのだけれど
 おなかが減っていては
 明日の目覚めがよくないので
 しかたなく七輪で秋刀魚を焼く
 もうすぐ木々も裸になるころ
 私の秋の一日

01/10/15


  顔の崩れた案山子


 目を離した隙に隣にいた顔の崩れた案山子の口が動いた
 葉のこすれる音を案山子の声に置き換えてみると
 それは決して歓喜の叫びでも悲痛な訴えでも無かったが
 わたしの心の淵に染み込んで深い藍に木霊した
 私の濁りを消しながらいつまでも木霊した
 目を離した隙に穏やかな顔になっていた案山子は消えた
 今私はまた一人なって葉のこすれる音に耳を傾けている

01/10/15


  このとき


 早い朝に出て木々に体を浸すと
 すでに息は白く大地もまた白く
 静寂の中から一日が湧き出てくる

 この空気を喜んでいる私も
 わずか数分の後には怒涛の中で
 すべてを忘れてしまうだろう

 それもかまわない
 毎日のこの瞬間が今の私には
 どうしても不可欠なのだから

01/09/28


  風が吹いて 


 このまま風の音を聴いていたら
 すべてを洗い流すことができるだろうか
 引っかかっている些細な怒りや悲しみ達を
 語り及ばない涙の源と共に

 風が行き先を見つけるころには
 私もあなたのところに辿りついていたい
 正義を見つめ続ける瞳が
 傷つくことなく疑うことなく存在し
 夢でなくその地で私を待っているのだから

01/09/25


  腐葉土


 めぶき、しげり、もえ、おちる

 これでおわりではない
 これからが私のやくめ
 湧き上がる雲に心ゆれ
 ひとり沈む太陽に涙しても
 かさなり、かさなり、土になる

 なにも知らなくていい
 そのまま眠りなさい
 そのほほ笑みのままで

01/09/25


  本当


 ポプラの並木も
 ナナカマドも反応している
 私もちぢこまる
 心とは別の世界で
 支えが崩れ落ち
 私の知らない人が泣き
 ほこりにまみれている

 すべてがほんとうなのです
 あなたもほんとうなのです
 私も実はほんとうなのです

01/09/18


  粘土


 まずは首を練り上げる
 シマウマのそれでもいいし
 ジャコウウシのそれでもいい
 顔は気難しい牧師にして
 一点を見つめる

 それは私を見つめる
 それは心を見透かす
 私は鐘の音に
 かすかに反応しながら
 さらけ出す
 自身の造作であるそれに
 なにもかものすべてを

 それが心を宿す前に
 なにもかものすべてを

01/09/11


  目蓋


 隠された澄んだ瞳の奥で
 あなたはなにを見ている

 雨に打たれ落ちる白樺の葉か
 間違いだらけの道標か
 消えかけの霧の行く末か
 何かが飛んだ茜の空か
 白に戻った秋の手のひらか

 まぶたを私にください
 遥かの昔の今宵
 私があなたから生まれた今宵
 あなたの景色に重なりたい

01/09/09


  夏の雪


 緑に染められた大地に
 雪野原が重なったのは
 雨上りの青空のせい
 雲の清々しさのせい

 吹雪の夜には寝ていた
 何も考えず、ひたすら

 夏の空の下に雪野原

 旅立つ人を見送り
 私もまた違う道に立つ

 消えない道を思いつつ
 見えない道を見据える

01/09/09


  葉月が終わる時


 ここはすでに冷たい風が渡り始め
 君がどうなったのか

 やさしさに包まれたい時なのに
 涙があふれこぼれ

 すべては酔いの中
 すべては夢の中
 なのか

 むさぼりたくて
 森の中、放浪

 脱け殻が染められ
 夕日に染められ

 ただ君に思い馳せ
 見つけられず

 霧は深くとも
 透明の露に葉月終わる

01/08/27


  忘れ物


 あなたの消し忘れた夢が
 軒下で今日も揺れている
 あなたの瞳の優しさそのままに
 淡い光りを放ちながら

 私は木星が月に隠れる事も知らず
 つまらない夢の中にいた
 こんなことなら眠らなかったのに
 などと後悔しながら

 それなのにあなたはもういない
 夏が過ぎ秋が過ぎ冬になっても

 ただ揺れるだけ
 ただ放つだけ

01/08/18


  漂うだけでは


 私だけが見ていた夜明けのとき
 二度と戻らないこの旅の途中で
 多くを語らない森の長老たちが
 一つも許さない厳しい姿勢保全
 微塵も揺るがないあなたの信念
 零には帰れないこれからの私は

 漂う波ではない

01/06/25


  海を出た日


 私が初めて陸に上がったとき
 あなたはすでに森に暮していた
 私は遠くでざわめく葉の音にあこがれ
 ひれをあやつった
 潮溜まりで一息も二息もつきながら
 目指すあなたは黙っても
 葉の音だけを頼りに向かった
 透明な風ノ流れる
 遥かの森を

01/06/25


  脈打つ喜び


 ごくごく普通に脈打つ喜び
 昔に夜が明けなかったこと
 それすら忘れてしまった
 少しも何もひとつも君も
 枠の外で影さえ見えない
 混沌ではなく湖の鏡面

 脈打つ喜び
 脈打つ喜び
 他に何もいらない
 森の叫びすらも

01/06/04


  遥かに


 清清しい音が機械から流れ
 忘れたはずの大地ふたたび
 酷寒を歩いたあなたの心は
 埋もれてしまった自由の道
 二度と戻らない旅した笑顔

 まっすぐに生きた証しだけ

01/06/04


  靄の下から


 毎日靄が掛かる曲がり角
 逸らした心から柳の花が舞うも
 谷の下を覗く勇気などなくて
 道端の黄色い花に春だけ

 ほかに何も気づかずに

01/05/31


  あなたが風なら


 あなたが風ならわかるかな
 わたしのこと

 あなたと同じに空を翔け
 旅する鳥に学んでいる
 わたしのことを

 あなたと同じに地上を眺め
 悲しい戦いを直視しなければならない
 わたしのことを

 あなたと同じ今日を見つめ
 笑ったり泣いたりしている
 わたしのことを

 あなたと同じ海を渡り
 生まれる前のことを思い出している
 わたしのことを

 あなたと同じ夜にさ迷い
 スピカの前で立ち止まっている
 わたしのことを

01/05/21


  ありがとう

 喜びに満ちたあなたの足取りに
 わたしは少し戸惑いながら
 落葉松の山に落ちていく
 赤い赤い夕日を見送ったのです

 遠くに思いを馳せながら
 苦しかったあの日々もまた
 とてもとても大事だったこと
 口にしないまでも
 今ほんとうにそう思えるのです

 夢を果たしたわけじゃないけれど
 こうしてあなたとお酒を飲んで
 消えない炎に照らされていると
 やっぱり涙があふれてくるのです

 すべてすべてあなたのお陰
 心の底から伝えます
 ありがとうの言の葉を

01/05/16


  春の雪

 唐突に春の雪
 名前も知らぬ花を覆い
 私の影にもかぶさる

 疑いの陽の光
 すべてを解かすことをせず
 不完全に時間を費やす

 何食わぬ顔の鳥
 濡れた毛をつくろい
 森の朝に高く羽ばたく

01/05/08


  静かに


 そんなに私を見つめないで
 明日のために生きてるわけじゃないから

 崩れそうな今日のこのとき
 負けないように
 ただ
 肩のチカラをできるだけ抜いて
 あんまり先を追うことしないで
 ただ
 時の流れのそのままになんて
 だから
 私のそばにいて
 そっと背中をつけて
 そっと耳打ちして
 そしてやっぱり
 私を見つめて

01/04/25


  少しの焦燥


 あれからまだ少ししかたっていない
 それでも少しもおぼえていない
 少しのよろこびと少しのかなしみが
 たしかにそこにあったはずなのに
 どうしてしまったのか
 わたしの少しのさいぼうたちは

 それでも少し酔ってしまうと
 少しおだやかになって
 だれにといかけることもしなくなり
 少しのあせりもきえ
 少しだけ笑顔がもどった

01/03/29


  夜にひとり


 あなたがいない夜だから
 何も返ってくる筈ないのに

 もうすぐ朝というのに
 黒と赤のすき間に消えたあなたは
 このまま帰らないつもりか

 そんなことわかってるのに
 なぜに眠らない

01/03/29


  ほんとを


 春の嵐が雪を頬に当て
 涙が横に飛び君が叫ぶ

 鼻も耳も千切れそうで
 きっと息も絶え絶えだろうに
 それでも未だ楽しげに
 明るい笑顔で雪を蹴る

 なぜにそんなに踏ん張る
 うずくまってもいいのに

 明日という日が見えるのなら
 すぐにでも君に知らしめて
 伝う涙、薄橙のハンカチで拭うのに

 今、君の声を聴きたい
 底でうごめくほんとの声を

01/03/22


 したたる


あたたまった羽のしたで
森の露をのみほしながら
うすいうすい桜のいろを
あきもせずもてあそんで
こたえる声に耳をすます

眠そうなミミズクでさえ
朝を待ちわびているのに
私は他になにもいらない

波立つ季節と知ってたら
踏み込まなかったろうに
今では
溺れることもいとわない

そんな深い闇のなかこそ
今では
私のゆいいつの安息の地

01/03/22


  君の瞳には


 どんなに空が蒼くても
 どんなに野に花が咲き乱れても
 君には何ひとつ映らない

 苦しみ、もがく君に
 何の言葉を掛けれよう

 変わらない瞳の輝きは
 深い悲しみを覆い余りある
 明るい笑い声は
 動かぬ体を包み余りある

 素敵に舞い、駈ける君には
 きっとすべてが見えているのだろう
 私などには到底見えない
 ほんとうの時の流れというのものが

01/03/22


  再構築


 夢が白んだ朝にあなたはたたずむ
 成熟するかに見えたその夢が
 粉々になり床に散らばっている

 これで今を見失ってしまいそうなら
 とがった欠片達の一ツ一ツを拾い上げ
 もう一度だけ組み立ててみようよ

 角を丸く磨き上げ
 昨日までの余白を見直し
 少しだけ工夫を加え
 融けた欠片は新しく作り直して
 ジグソーパズルのように
 時間を掛けて

 そしてすべてが揃ったら
 オークの樽に詰め込んで
 少しの間寝かせよう

 焦るな焦るな
 あとは時間が何とかしてくれる
 すべてを信じよう、すべてを

01/03/22


  琥珀の中で


 蚊も蓮も琥珀に溶け
 進化を受け継いだ

 私も琥珀に溶けたなら
 遠く形を無くした青い星で
 誰かが解いてくれるだろうか

 綺麗な顔をしていたことを
 なぐさめを叩いたことを
 進化しなかった歴史を

01/02/19


  朦朧(もうろう)


 かぜ薬で眠くなる

 枝から落ちた雪をかむ
 晴れ間に遊ぶ薄雲をちぎる
 
 ストンと夢の中

01/02/19


  最後の粉雪


 冷めた紅茶の苦い朝、帰り道
 君と汽笛、ひびき立ち止まり
 かじかんだ夢に息、吹きかけ
 振り返らず、空のみ見上げる

 二度目の春の風、吹かないと
 かすかに予感、列車がうねり
 心よじれ、倒れる人が波打つ

 別れの際の言葉、意味を知り
 引っかかる足元、伏せた瞼に
 淡い粉雪は映らず、涙も忘れ
 引き返すも忘れ、森のみ想う

 終焉の時は呆気なく、そして
 静かでなにもなく、ただ粉雪

01/02/19


 捨てた鍵


鍵がない

ないのではない
捨てたのだ
でも形は覚えてる

君に教えたら
複製が作れるかな

そうならお願いしたい
君には見て欲しい

私の過去の心の扉の奥を

01/02/19


 虚脱


頬杖を突きながら嘘を吐いてた
思いのすべてを消していた
なけなしの恋にすがってた
とっくに涙は擦り切れたのに
それでも悲しい歌をうそぶいた

01/02/19


 森へ


テントひとつ背負い、森を行く
地図を忍ばせ、コンパス忍ばせ
奥に住むと言う、君に逢うが為

君には羽があるのか
君には角があるのか

輝く瞳はあるのか
濡れた唇はあるのか

それとも何もないのか
それとも君はいないのか

01/02/19


 桜いろ


涙でコーティングしよう
色あせないように桜貝

空の青に負けないように
海の緑に負けないように

言葉をどれほど上書きしても
消せないあの日

色あせないように桜貝

01/02/19


  雨の海


ここは冬でも雨になる
僕が詩を書こうとすると
波の音がした

透明のビニール傘が
白い雨粒を保って
さっきの景色を忘れない

備え付けの便せん
文字は少し大きめに

書き終わったら
君が崩れたから

なんだかそんな夜
雨の海に逢えてよかった

01/02/13


  春への想い


 遠い深い夢の中
 星の空に書いた文字は途切れ
 カリストの涙でかき消され
 暗い深い闇の中
 ひと滴の光が流れ
 星の砂の浜辺で再生され
 それは哀しげで物憂げで
 愛を語るには寂しすぎ
 君を語るには頼りなく

01/02/09


  宵の生成


 森が青に染められる浅い宵
 薄氷の深き湖に紫を乗せ
 浮かぶ目印にする
 冷たい湿地は灰にざらつき
 打ち消した明日を引きずる
 裂ける沼は黒に沈み
 手探りの今を難解にする

 空を翔けた者はすでに眠り
 霞みつつの夢にすがる
 やすらぎの炎は
 瞬きの中に喪失
 滴りながら凍りつく思い
 取り外せない虚構の時
 涙の鎧が完成する

01/01/23


  白い落ち葉


 肩肘なんか張んないで
 自然のまんま心のまんま
 すべてすべて受け止めて
 大きな白い森の中
 一緒に生きて一緒に歩こう

 雪野に落ちた木の葉さえ
 きっとあしたに夢描いているよ

 悲しい日もある
 痛い日もある
 笑える日もあるよ

 だから恋
 だから楽しい
 だから人生

01/01/12


  静かな椅子


 凍える冷たい朝に
 遠くの風を感じたら
 淋しくなった街路樹に
 寂しい瞳でもたれてた
 あの日の君を思い出す

 温かなモカを落とすと
 動かない空気の中から
 まっすぐにまっ白い湯気
 あの日の君が向こう側
 少し眠そに笑ってた

 わずかの風に消されても
 膜の下に焼き付けたまま
 香りと一緒に閉じ込めて

 深く静かに椅子に掛け
 深く静かな君を訪ねる

01/01/12


  ぽっかり穴


 ぽっかり穴から風が吹く

 大きなひとみが枯れたから
 見しらぬ穴から風が吹く

 もいちど苗から始めよか
 みだれた風が心地よく
 みだれた心をかきまわす

 いつしか大きくしげったら
 いつしか風も収まって
 いつしか心も治まって

 穴のすがたも見うしない

00/12/19


  大丈夫


 あなたが知らない私と
 私が知らないあなたが
 明日の街で出逢っても
 なにも心配要らないよ

 顔も知ってるし
 目の色も知ってるし
 涙も形も知ってるから
 大丈夫

00/12/13


  半分の月


 残り少なの言葉を束ねる夜
 半分の月が張り付いた

 輝きは凍える空気を伝え
 指先を重い結晶が覆う

 遠く消えていく予感
 わずかの焦燥

 凪の海に分けた体を浮かべ
 優しさの昴に語っても
 ほえる獅子と走り去る
 
 もう炎にかざすだけ
 もう眠りにゆだねるだけ

00/12/13


  初雪


 とても寒い朝
 昨日の仲間と遊んでる
 一粒も消えないで
 くるくると

 でも、束の間

 根雪には時が早い
 根雪には心が幼い
 根雪には君が遠い

 今度は一月の雪になる

00/12/07


  汽水


 汽水に生まれ育った私は
 上流の生まれたての純白も知らず
 この先の大海原の深蒼も知らない

 どうすればいい
 なにをすればいい

 居心地は悪くない
 このよどみも嫌いじゃない

 ここから動くと生きていけないこと
 知っているけど

 どうすればいい
 なにをすればいい

00/12/02


  闇の奥から


 漆黒の夜の果てに置かれた門を辿る
 悲哀と恐怖と孤独を払いのけるため
 一心に扉を開くがそこは更なる深い闇が
 目的のない夢たちを支配していた

 先人の枯れたな涙の跡がかすかに道を照らし
 またしても私を放浪へと誘惑する
 引き返すのも手と躊躇するが
 それをうとましく思う別の私が先を急がせた

 幾ばくかの望みさえ持てば進めると心し
 両手を目の高さに保ち、掲げ、暗中模索

 わずかの明かりに過敏に反応してしまう
 滑稽だがそれも仕方がない
 小枝に傷つきながらも
 小石にさえつまずきながらも

 「いつの時代も誰もがこれを繰り返した」と
 そんなことを考えながら狂った磁石を見つめ
 いつにない軽い足取りに驚きながら
 腕の時計を捨てて更に闇の奥へと彷徨う

00/12/02


  あなたへ


 あなたが追うべきものは
 あのときの悲しい道化の顔じゃない
 あそこに置き忘れたサクラ貝でもない
 あなたの見つめるべきものは
 あの子が持つ夢がつまった風船と
 あの子と歩く道に咲くタンポポ
 あんなにまであこがれた明日を
 あきらめるなんて言わないで

00/11/10


  寒い部屋


 寒い日には何もかもが急ぎ足でやって来て
 ばたばたと残りのすべてを取り去っていく

 なにも考えないで居れたらいいんだけど
 それほど私の心は乾いていないし
 がらんとした空気にさらされた足先を
 電気ストーブのオレンジの熱で暖める

00/11/10


  うたた寝準備  


 紫式部を清楚に飾る

 バッハのフーガを流し
 いつからかの額を外す

 落ちないはずの時計を転がし
 欠けたグラスを薬指でなぞる

 ウイスキーは相変らずで
 喉の底でくすみ燃え落ちる

 へこんだソファーに眠ると
 いつもの夢の続きが始まる

00/11/10


   風の中で


 怒涛のごとく風が吹く
 私の頬に小枝をかすめ
 冷たい砂が両目を覆う

 後戻りしたくなかった
 帽子に手を当て、全身を風に向ける

 パタパタと背中の何かが飛ばされた
 汗を拭いた赤いバンダナだろうか

 風はまだ止まない
 もう少し我慢だ

00/11/03


   空の向こう


 こんなにも空が澄んでいる

 悲しみは遥かに置いてきた
 今ごろはきっと静かな海の底で
 足の長いカニがつついているよ

 胃薬は当分いらないから
 捨てることにしよう
 ついでに手紙の束もいさぎよく

 遠い思い出ではない明日が
 「早くおいでよ」って
 手招きしてるのを見かけたから
 軽いスニーカーに履き替える

00/11/03


  苦悩


 あなたの涙のような雨が
 冷たく木々を濡らしている

 怖いの


 彼女は避けられない淵に立ち
 身動きひとつ出来ないで
 ひとり苦しんだ

 私はそっと腕を引き寄せるだけで
 いいのか

 せめて
 すべてが成功すること
 それだけ
 祈るだけ、それだけ

00/10/07


  曇秋


 冷たい朝の光の中
 すでに季節は移りすぎ
 研ぎ澄ました心の針に
 濡れた綿毛は重たく
 絹の雲には届かない
 これ以上の術もなく
 釈然としない空の色に
 染め続けた予感も
 鮮やかさを失いつつある

00/10/07


  隘路 (あいろ)


 切り立った両壁からは
 絶えず小石が落ちてくるのに

 今すぐこの断崖の道を
 越えないといけないのか
 どうしてそんな危険を
 冒してまで先を急ぐのか

 日が沈むころ風もやみ
 きっと優しい道に変わるから
 しばらく私と明日を語りながら
 時間をつぶしてみないか

00/09/16


  中央出口 


 私の知らない季節から
 私の知らないあの朝から
 物語は静かに進んでいた

 雑踏に浮かんで静止する君
 アナウンスの音もなくなり
 押しのけて進む人々も消えた
 まるで映画の特殊効果のよう

 すれ違いの簡単な筋書き

 自動改札のゲートが開いたら
 きっとあなたは消えている
 

00/08/29


  のそのそ



 原っぱは時間がカメみたい
 仰向けで見る雲もカメみたい

 草を揺らす風が波打ちながら
 ざわざわと私を追い越した
 そしたら知らないあいだに
 私もカメになって歩きだし
 雲のカメにあいさつしてた

 たまにカメも悪くない
 日溜まりをのそのそ歩く
 

00/08/29


  夕立のあと



 雷が遠のいたら
 光るしずくで森はきらきら

 ずぶぬれでも平気だ
 ヒマワリになって空を向く

 雨上がりは陽射しも肌にやさしい

 汗も涙もどんどん乾いてく

00/08/29


  森で想う


 森に一歩踏み入ると
 ささやきが聞こえる
 肌が緊張する

 深い想いのすえ
 もうこれでいいと・・

 無口な雲を意識した
 そんな静かな夏の午後
 不思議なささやき

00/07/26


  海で想う


 膝の上に置いた私の手を
 飽きもせずいじりながら
 明日の語りを続けている

 朱色に染まる海岸線には
 旅のカモメが群れ飛んで

 見上げる額に汗が光った
 そんな流れる夏の午後
 優しい恥じらい

00/07/26


  心の大きさ


 心に余裕が出来たっていうのは
 心から何かが消えたとき

 でも何かが一個入るとまた溢れそうになる
 心の大きさってたいしたことないんだ
 あえて言えば小さいんだ

 それが悪いのかどうかわからない
 大きすぎても大変かもしれないし

 三個くらいは入るのかな
 一個の大きさにも関係あるのかな

00/07/20


  誘惑


 あなたが巧みに誘うから
 いつしかこんな遠くまで
 あなたが嘘泣きするから
 いつしかこんな近くまで

 ここが夏の海でよかった
 夏の太陽の下でよかった
 キラキラしててよかった
 

00/07/20


  水の音       


 日溜まりに腰掛けていると
 樹のなかを流れる水の音が
 鮮明に聞こえてくることがある

 先端の葉まで届ける力が
 この静かな容姿のどこに
 蓄えられているのか
 想い及ばないが
 確実に休むことなく
 繰り返されている

 そして
 息をひそめ、前を見据え
 動き出す光と影を
 待ちつづけている

 日溜まりに腰掛けていると
 別の世界の音が聞こえてくることがある

00/07/12


     デッサン


   あなたをなぞった木炭のかけらで
   暖炉を燃やした

   あなたを消した食パンのかけらは
   私の空腹を満たした

   そして、あなたを恋した小さな心は
   切手を貼らずに旅に出た

   完成したけど白黒のデッサンだから
   たとえば私にちょうどいい

00/07/12


       演技者


   心を閉ざしたあの日から
   いつしか悲劇のヒロインで

   笑顔もどこかに置き忘れ
   乾いた舞台で嘘泣きしてた

   希望の意味さえ知らぬまま
   うずくまるのが癖になり

   身じろぎもせず
   半開きの瞳に
   悲しみだけを焼きつけた

   誰も鍵などかけてない

   鉄の扉も重くないのに

00/07/12


      春の歌


   時計台の下を通り過ぎ
   公園通りに出る頃

   春の風がすり抜けた街並みに
   確かに残したふたりの足跡も
   伸びた夕日と遊んでる

   行き交う人が楽しげなのは
   きっと、あなたの笑顔のせい

   夕暮れにこんなに輝いて
   思わず足が軽やかで
   明日のことは知らないままでも
   流れるメロディ、静かに歌う

00/07/12


  蝶


 何かが窓の外を横切った
 気になったのでそのまま見てた
 そしたらもどってきた
 ひらひら紋白蝶だった
 しばらく花の周りを飛んでいた
 そして少し高く上がった
 低い雲と重なって見えなくなった
 それから花は青い実をつけた
 それから紋白蝶は来なかった
 

00/07/09


  歩いて


 歩いて歩いてまた歩いて
 疲れたらすこし休んで
 なぜ歩いてるか忘れたら
 木かげでまた休んで
 それでも思い出せなかったら
 となりの人に聞いてみて
 その人を好きになったら
 右手をそっと差し出して
 微笑みが帰ってきたら
 今度はふたりで歩いて
 

00/07/09


   風を描いて     

 光の中に溶けていく不安

 未完成に見せかけた絵画のように
 誰にも理解されなくてもいい
 重ねた蒼と白から風が吹けば
 それでいい
 パラソルに隠れた瞳を見つけたら
 それでいい

 風下に立つ陽炎がモザイクでも
 ほどけたスカーフを見失わないから
 光の中から生まれた希望
 

00/06/26


    霧の森     

 霧に囲まれた森は多くを語らない
 「あなたの思うままに」と
 私を少し冷たい感じで突き放す

 視界の悪い道をさまよえというのだ

 自分でちゃんと考えろというのだ
 時には深く掘り下げろというのだ
 人の心の痛みを感じろというのだ
 涙の意味を察しろというのだ

 ならば焦らずそれに従おう

00/06/26


   ハルニレの道    

 きのうは風と雨が強かった
 ハルニレの葉は斜めで
 水たまりも斜めで
 差す傘も斜めで
 歩きにくくて
 君も居なくて

 小雨になっても
 葉っぱの露で濡れて
 服も冷たくなって
 足も泥んこで
 変わらず歩きにくくて
 変わらず君も居なくて
 

00/06/22


  カエルの行進

 とある梅雨の日、かえるの行進

 2番目のカエルがつまずいた
 3番目のカエルもつまずいた
 そのまた後ろのカエルもつまずいた
 そして一番後ろのカエルもつまずいた

 先頭のカエルがそれを見て笑った
 つまずいたカエル達も笑った

 カエルの行進、みんな笑った 
 

00/06/16


  ただひたすら  

 ひたすら心を隠した
 耳がちぎれるほどに

 知らなくていいと思った
 あなたさえいればいいと

00/06/16


  静かにさよなら 
  
 嘘を笑ったあの日から
 明日につまずくその前に
 少しずつ私をけずった

 あのメロディーが流れても
 消えそうな夕日が誘っても
 さよならだけが聞こえない
 

00/06/16


  涙で眠る        

 こんな雨の日は遠い道
 街路樹の下で小さく消える

 ほんの少しだけ見えない形
 それがありがとうの訳なの

 どんな時も輝いていたいと
 しなやかに語ったあなた

 濡れて流れる坂道で
 切ない曲を見つめる

 細い糸の上には遠い空
 あなたの涙で眠りたい

00/06/10


  線路の上で        

 スケッチブックを時刻表に重ね列車に乗った
 約束の季節はとっくに終わっていたけど
 磨り減ったクレパスは網棚でカタカタ鳴っている

 古びた車内はガタガタと小さく揺れて
 塗り重ねたペンキは剥がれ落ちる
 大きな荷物の老婆はそれに目をやり
 そしてまた窓の外の遠くの景色に戻した
 

00/06/10


  森を散歩       

 真っ暗闇で転んで飛んだら
 あちこちすりむいた

 キツネが草の陰で笑ってた
 ウサギもつられて笑ってた

 私もつられて笑ったけれど
 きずが少し痛かった

 ぽんぽんとほこりをはらって
 知らん顔で歩きだす

 手を大きく振った
 足を高く上げた
 月明かりも出てきた
 もう大丈夫

00/06/10


     帰る人

   移り往く季節の風を君は知らない
   置き去りにした椅子に腰をかけ
   遠くを走る郵便配達人を眺める
   織りかけのタペストリーは揺れ
   褪せた思い出の匂いだけを運んでくる

   擦り切れた時間がどれほどあっても
   何も作り出せないことは知っている
   どんなに悲しい映像ばかりでも
   捨て続けることは出来ないはず

   綴られたノートを読み返し
   昔の君を取り戻して欲しい
   ひたすらスクラムを組んでいた
   あの頃のような君を

00/05/28


   乾いた大地に

 容赦のない太陽を見つめる瞳に
 視線を動かす力は残っていない

 一杯のスープがここには来ない
 一握りの穀物もたどり着かない

 渇き切ったこの黄色い大地に
 申し訳の雨などいらない
 道が閉ざされるだけ
 道が流されるだけ

 差し延べられるほんとの愛だけが
 彼の瞳を唯一照らすこと
 みんなみんな知っているのに
 

00/05/24


     願い

   うねりに飲み込まれる夕刻
   あなたからのコールはなく
   行き交う仮面の群れは
   沈む逆光にますます鈍く

   知らぬ音は私ではなく
   あなたは自らさらに深く
   割れた仮面は流れに遊び
   飛び石を跳ね消え行く

   闇の二人は地下に這い
   隠れた明かりを求めた
   ゆれるグラスはこぼれ落ち
   ずるい二人は忘れた振りをする

   不確実な時間の重なりの中
   崩れたパンをむさぼる
   満たされるは望まないが
   より高き心は願いながら

00/05/24


   波打ち際

 人の造った波打ち際に
 流れ着いた短い手紙
 誰も居ないから
 いつまでも漂っている

 私宛ての筈もないけど
 そっと拾ってみる

 どこか懐かしい言葉が
 母に似て温かい

 でもやっぱり私宛てじゃない
 そっと波に帰そう

00/05/24


     大道具

   頬のぬくもり忘れた
   やわらかさも忘れた

   もいちど逢いたいなんて
   思っても、ただそれだけ
   逢えばまた、おなじこと

   冷たい雨に打たれたからって
   何が始まるわけでもない
   暗い部屋に閉じこもっても
   明日に陽が射すわけでもない

   もう5月だというのに
   こんなことしか思いつかない

   舞台の袖にも春は来るというのに

00/05/24


  白いシーツ

 寄り添う温もりだけで
 言葉なんていらないと
 あなたは小さく枕を動かし
 白んだ空に心を向けた

 そんなに近くを見ないでよ
 息が苦しいよ
 そんなに遠くを見ないでよ
 夜が明けちゃうよ

00/05/24


  だから

 それなのに私はまだあなたを知らない
 それだから私はあなたに近づく

 いつからかあなたは笑い始めた
 いつまでもあなたは泣いていたのに

 こんなにもあなたに逢いたい
 こんな日にはあなたにいて欲しい

 もう一度あなたを抱き寄せたら
 もう二度と後悔しない日々

00/05/24


  底から

 まあるい波は小船を包み
 どんより雲の隙間からは
 こぼれた白い月が私を包む

 水平線に分度器を当てたら
 見知らぬ船が沈んで行った

 深海に潜む妖しい魚の
 背びれに指を噛まれたら
 私の星の息づかい

00/05/24


  花びら

 とげが刺さると、とても痛いから
 強く握るのは止めようと思った
 
 でもあんまりふわっと持ったから
 橙色の素敵なバラはすり抜けた
 
 花びらが何枚かちぎれて散らばった
 
 踏まれる前に、も一度拾おうか
 消し忘れた線が少し気に掛かるから

00/05/24


  ほそい雨

 ほそい雨が静かに傘を濡らした朝
 参道の石畳は桜に染まり
 季節の過ぎるを教えてくれた

 跳ねたしぶきはあしたを縁取り
 まだ見ぬ人を映しだす

00/05/24


    ルノアールに逢いに

  どこで降りればいいのか
  わからないでバスに乗った
  すごく混んでたけど
  今日は日曜日。

  ひとつの吊り革につかまった
  カーブでゆれて楽しい

  「次は美術館前」

  ここだね
  君に逢えるね

00/05/12


   その為に

  時計が壊れたよ
  羽もちぎれたよ
  傘もやぶれたよ

  きっと重い体で
  無理して飛んだのが
  いけなかったんだ

  すべてを覆った鉄の板の
  すべてのボルトを取り払う

  早く治さないと
  週末の午後6時
  降り返るあなたの
  笑顔に逢えないから

00/05/12


     半透明

   地下鉄の窓がゆれている
   文庫本は左手の中で閉られ
   まなざしだけが明かりを追った

   きしみながらドアが開き
   定まらない視線達は消え去り
   希薄な息の重なりだけが
   いつもの闇を振るわせる

   静かな叫びの横には
   さびた鎧の戦士が立って
   ベンチの私をにらんで消えた 

00/05/12


   憂いのペン

  うららかな午後、春

  文机の引出しの隅に
  なくした筈のペン

  思いを綴った果ての便箋に
  恐る恐るしたためた

  悲しいインクの匂いは
  指を伝い瞳を振るわせ
  文字はにじみ、藍色。
  セピアの心に広がる

  指を使って青空にした
  イチゴで光も描いた
  タンポポの茎であなた、描いた

00/04/26


     ぽっかり


   マッコウ鯨が空に浮かんだ

   自由な心になりたくて
   やさしい心を育てたくて
   そして、みんなの悲しみ
   消し去りたくて

00/04/26


     なみうちぎわ


    そよ吹く風を道連れに
    珊瑚の浜辺で流れる時間

    うたたね髪をそよがせながら
    寄せる波から溢れる泡粒
    君への思いのごとくに悲しく消える

    尖塔にたたずむ海鳥達は
    遠くの空に恋して悲しく
    苦い涙で明日を見つめる

    絶え間ない波のふちに足を浸し
    そよ吹く風にうながされ
    遥かの地平に時を投げたら
    消えた乳白色を目が追っていた
 

00/04/26


     これから


   もう、ひたる時間もない
   君の手が冷たいんだ

   あそこの公園で焚き火にあたろう
   肩には私が外套をかけるから

   あったまったら汽車に乗るよ

   そして、懐かしい街に着いたら
   瞳に映る星を数えて
   あなたと朝まで夢を語ろう

   もう迷わないと決めたから
   たじろぎながら昇る太陽も
   やっと背中を後押ししてる
 

00/04/10


  曇りのち快晴


 あなたが支えてくれました

 弱りきった思い出心を
 優しい笑顔で覆ってくれて
 こんなに大きくしてくれて

 青い空だけ見つめていれる
 涙の星はもう忘れます
 
 あなたに逢えてよかった
 今日は素直に言えそうです

00/04/10


  春の心


 裸足で掛けたくて靴を散らかす

 浅い春の陽射しはあなたと交わり
 ほのかに温まったさざ波にさえ
 私はなす術もなく転がる

 崩れた砂は海に帰り
 沈んだ足を巻き込むから
 乾いた心も帰したくなり
 からい水を流し込んだ

00/04/10


  衝撃

 意識がなくなり
 鈍い痛みが走る

 記憶が途切れだし
 あなたが薄らぐ

 白日の衝撃

 時に癒しを乞う

00/04/05


   争い

 息が固まり
 冷たいコンクリートを
 覆いつくす

 ビルの地下で子供達が凍えた

 どんな顔だったのだろう

 白い戦車が脇をすり抜ける
 私の知らない世界で

00/04/05


  揺れる想い

 それでは今の光は
 その中に入ることを許さず
 よどみを強いるため
 やさしさを消してしまったのか

 それなら過去の悲しみが
 どんなに迫っても
 静かに受けなければならないのか

 ならば流れに足をひたし
 溜まった泥土を巻き上げず
 空が燃えるまで見上げていよう

 それでもまったくの知らん顔なら
 すべての苦悩達をたぐり寄せ
 私自身を粒に変え、埋め込み
 そして、かなたの闇に投げ入れて
 揺れる光にたどり着きたい

00/04/05


     カフェにて

   ミルクセーキを飲んだあなたは
   白いリップをつけたみたいで
   とぼけた顔に気づいていない

   外の景色はあわただしく
   宅配ピザが信号に引っかかる
   点滅にあわてるミニスカート

   季節はずれの赤い花は
   ブロンドのストレートを包み込み
   かすかな風でグラスを染める

   いつになくおしゃべりなのは
   あなたの落ち込んでいるしるし

   すべてを受け入れ笑顔をあげる

00/03/15


     窓辺

   3月の陽だまりは心地いい
   気の早い蝶が花を探してる
   私はこのまま椅子にもたれ
   冷めかけの紅茶を飲んでる
   そして隣できみはうたた寝

00/03/15


    静刻

   雲は降り、陽が昇る
   闇が去り、朝が満つ
   眼を細め、耳を澄す
   鳥は鳴き、森も歌う
   君は立ち、我も歩む

00/03/15


     カクテル

   あなたの好きな金曜の夜
   カウンターには赤い灯で
   肩越しの香りに落ちる人々が
   グラスを舐めている

   吊るされたモニター画面の
   恋のビデオに音はなく
   字幕だけが移り流れる

   何度も見たストーリー
   あなたが知らないエンディング

   今夜は素敵な恋をあなたと見つめる

00/03/15


   春風

 たとえば森に分け入って
 雪のポストを見つけよう
 落ち葉に書いた希望のことを
 春の風にゆだねてみたい

 行きつく先は知らない

 配達人の気まぐれで
 流れる雲の消印を
 解読できるあなたの元へ
 届くことを信じてる

00/03/15


     あなたへ

   閉ざされた心は悲しいよ
   そぼ降る雪が笑ってる

   私も友に言われたよ
   少しの勇気、出しなさい

   昔のことは知らないよ
   だから今日を大事にね

   もうすぐ春が迎えに来るよ
   そぼ降る雪が眠るころ

00/03/15


   知らないけど

  一粒も解けずに重なる
  凍てつく雪の帰り道

  切れかかった街灯に照らされた
  寂しがりやのひとり言が
  かすかに聞こえる

  どこからだろう
  「春はどこ」って言っている
  たぶんそう言っている

  知らないあなたに逢いたくて
  「春はそこだよ」って小さく
  でもはっきりと闇に伝えた

  凍てつく雪の帰り道
  解けない雪がまつげに降りた

00/02/21


     たとえば

  たとえばあなたが悲しみに満ちたとき
  あったかなココアを作ってあげる

  たとえばあなたが出口を見失ったとき
  そっとライトで照らしてあげる

  そして
  たとえばあなたが私を愛したときは
  小さなろうそくを立て
  オレンジの炎を灯し
  あなたの瞳をみつめよう

  長い旅になるかもしれないから
  あなたの瞳の奥をみつめよう

  からめた指はほどかずに
  多くの言葉も語らずに
  ただひたすらあなたをみつめていたい    

00/02/12


   乾いた雪

 終わってよかったとあなたがいうから
 なんとなく納得していた

 始まりのときも雪が降っていたから
 ちょうどいいのかもしれない

 こんな雪の夜の
 こんな都会の隅っこで

 涙が流れてくれれば
 もっと楽なのかもしれないけれど


00/02/12


     あの日

   こうしていると昨日のよう
   すべてのことが苦悩のよう

   多くを語らなかった人
   あなたに出逢った遅い春

   何も語らなくなったあの日
   こうしていると悲しみの時
   あなたの心、見つめてなかった

   あんなにも愛したこと
   あなたの爪の形も忘れた
         

00/02/12


  知らない季節に


 心静かに夜が明け
 開け放つ窓からは
 深深と白い雪

 想い出のないこの季節が
 今の私にとって唯一の救い

 息でくもるガラスに
 あなたが重なっても
 あわてないで忘れます

 春にはまだ少しだけ
 時間があるから

00/01/29


     虚ろな雨の午後

   悲しい瞳は嫌いじゃないけど
   怒った瞳も嫌いじゃないけど
   遠くを見つめる瞳は嫌いです

   もうすぐ最後の季節なんですね

   あなたの知らない町で恋をして
   私も流れる雲を追いかけていたい

   あなたの知らない恋人に抱かれ
   私も流れる雨をなぞっていたい

   あなたが突然切り出すだろうの
   どんな言葉にも悲しまないために

00/01/29


     油絵

   時が過ぎて形は薄れ
   積んだキャンバスも色あせた

   乾いた絵の具はひび割れて
   瞳を細かく濁らせる

   重ならない絵の具は剥がれ落ち
   すべてを最初に戻してしまう

   あなたを見つめた記憶だけでは
   もうどんな色も作れない
   朝焼け色も混ざらない

   そっと伏せ、部屋の隅っこに置く

00/01/29


   終着


 駅のホームは冷たい
 足元からすべてを剥ぎ取っていく

 まつげが凍って目が開かない
 指でつまんで解かしてみたら
 それはまるで涙のように頬を伝い
 雪の上でふたたび凍った

 あの日から列車は止まらなくなった
 それでもただひたすら立ち尽くし
 突然現れては消える赤いライトを
 遠い記憶に重ね焼きつけた

 悲しいほどに白く清いその中で

00/01/29


     ラベンダー畑をまわり道

 
  うねりを見おろす

  雪にうもれたラベンダー畑に
  初夏の想い出はもうない

  ひとり乾いた花を持ち
  かすかな香りが心地いい

  楽しくなって駆け出すも
  なんどもころぶ

  またうねりを見つめる

00/01/29


      深夜の街

   黒い雨を寄せ集め
   消えた過去に微笑み
   悪魔のささやきに耳を貸し
   汚れた手をポケットにしまう

00/01/29


     言霊

   あなだにだけは伝えたくて

   微笑む天使の心の清らかさを
   透き通っていく空気の美しさを
   燃えるワイン色の炎の激しさを

   そしてその影に揺らめく私を

00/01/29


     凪   

   愛は頼りなくて
   風が止んで
   小船を漕ぎ出し
   日ごと
   君への想いが薄らぐ

   涙の痕は波に溶けだし
   珊瑚の砂を更に白く染め
   マングローブの森に帰り着く

00/01/19


      乾季

乾いた空気を肌にぬり
砂の外とうを身にまとう
そしてひたすら闇を待つ

閉ざされるを拒み
群れなすを拒む
そして常にひとり向かう

月の無い夜に
草原の淵をさ迷いながら

見えぬ獲物を嗅ぐ時
拭えぬ記憶をたどり
隠した喪失をさぐりあてる

00/01/14


      白い月

   ビルはほとんど夢の中

   無表情に慣れた朝の街並み
   闇を開いて日は昇り
   束の間の静寂を私に置いて
   白い月は行き場をなくし
   誰も知らずに天を飛ぶ

   想いの先にあるものは
   昨日の私の知らぬこと
   昨日の君に尋ねたら
   捨てた未来は語らずに
   凍ったペンを握り締め
   溶けた紙に押しつぶす

   冷めたカップをかき回し
   すぼめた心に流し込む
   取りこぼした時間達は
   曇った窓にからみつき
   忘れる振りを許さない

99/12/29


 快晴

 突然に潤んだひとみは
 私の深くに突き刺さり
 答えの息を詰まらせ
 ただ遠くを見つめてる

 探る間に君は席を立ち
 そして振り返り
 知らぬ気の笑顔で
 私の病みのすべてを救った


 永く降った雪が陽を反射し
 澄んだ瞳にキラキラ樹々を映し出す

99/12/29


     天使のいる風景
 
   雪に埋もれた小川の隅っこで
   君は零度に凍った水を飲み
   空から落ちた赤い実を食べた

   昔生まれの木立の上では
   遊びを忘れた子供が集い
   明日の話に夢中になって
   朝が来たのも気づいていない

   日の当たるベンチに腰をかけて
   いつも通りの道すがらの私は
   そんな見慣れた景色が不思議に遠く
   生まれたばかりの光に遊ばれ
   今日も飛べない空を眺める

99/12/29


  寛容

水平に吹く人を受け入れ
 粒を肌に貼りつける

 それは少し成長し羽ばたき
 私を未来に連れていく
 あるいは過去に連れもどす
 
しばらくで端から剥がれ落ち
 積もった白の仲間にまぎれ消える
 もしくはひとり孤独に根を下ろす

99/12/29


      そこに

   旅の支度を片づけていると
   鞄の底に鍵を見つけます

   古い洋館のそれのようでもあり
   海賊船の宝箱のそれのようでもあります

   捨てることも出来ないで仕舞い込みます

   私の机の中はこんな鍵達であふれています

99/12/14


      古恋屋

   要らなくなった恋引き取ります
   お引取り料はその恋の重さ深さにより
   変動しますのでご了承ください

   ただいまキャンペーン期間中につき
   ご成約のお客様すべてに
   恋の記憶自動抹消装置
   「ラブポイDX」(非売品)を
   プレゼントしています

   皆様のご来店を心より
   お待ち申し上げております

99/12/14


     夜の猫

   赤いラインの虚ろ姿が
   淡い月に遊ばれて
   地上の光を追い続け
   近づく影を食べつくし
   午前3時にさかのぼる

99/12/14


     偽りなし

   あだしナルシシストは
   今宵も街に徘徊し
   流れる道に腰をかけ
   消え返る刻に想い邪なく
   慎ましやかな人になり

99/12/14


     病室にて

   初霜の朝に光りしは
   細き指よりこぼれたる
   うたかた人の涙の凍りて
   藍をうすめてにじませて
   白き衣を飾るがために

99/12/14


      夏の日     

   苦しみを置き忘れたあの場所へ
   あなたもきっと今なら帰れる

   優しい嘘だけが一人歩きしたあの夜に

99/12/09


     ストーブのある部屋

   カーテンごしの柔らかさを
   薄目でいるとまぶたの裏に
   暗い朱色が焼きついて
   季節はずれの蛍のように
   鼓膜の中で飛び跳ねて

   小雪ごしのあたたかさもまた
   先の季節を暗示して
   ぎざぎざの残像を瞳に落とし
   頬にあたってしずくに帰り

   あなたごしの優しさすべてを
   小指の先に寄せあつめ
   くちびる淡く書き写し
   はがれる前に噛みしめる

99/12/09


    もうろう

   光を閉ざした瞳から
     涙がほろほろ零れても
     ハンカチが見つからない

     見つめるまなざしを
    優しく抱きしめるすべが
    どこにも見つからない

     赤い日がベッドを焦がすころ
     あなたは静かに伏せながら
     聞こえない言葉を述べ連ね
     交える小指は最後の約束 

99/12/09


      凍土

   秋霜及びて枯れ果て
   夏の営み語るを忘れ
   混沌たる心の有り様
   今まさに静まらんと
   土中の虫けら諭すに
   われ身じろぎもせず

99/12/09


     昼下がり

   空を見上げて歩いていたら
   静かに遮断機がおりていた
   いつの間にかあなたは
   向こう側で手を振っている

   電車が右から左から交差した

99/12/09


     枯眠る

   冬野を渡る風に
   色あせた麦の芽が哀しい

   はらはらと霧氷
   舞い落ち刺さる

   遠くからの煙が
   霧と重なり景色が消える

99/11/24


      マッチ

   あなたを暖められない
   湿ったマッチ

   風にさらしてみたら
   ぼろぼろになった

   困ったので舐めてみた

   舌が朱色になったけど
   うまく固まった

   しゅっと擦ってみた
   笑顔が浮かんで
   ほわっとなった

99/11/24


      冬近く

   最後の一葉も今はなく
   のびる空はやけに冷たい

   流れる雲は冬を待ちわび
   季節を終わりにいざなって
   知らない街に飛んでいく

   依然動かぬ私には
   何もないこの時が
   唯一心に優しくて

   想いをここに重ねつつ
   願いをここに刻みつつ

99/11/24


     あなた

   改札口でくちづけて

   あなたは何度も微笑んで
   私は小さく手を振って
   涙を必死に我慢した

   あなたが消えた人込みで
   半べそかいて立ち尽くし
   濡れた唇触れてみる

   あなたのぬくもり消えぬ間に
   あなたのやさしさ消えぬよに

99/11/17


     知らぬ間

   あなたの悪戯な瞳は

   何時も私の周りで渦を巻き
   追い付けないまま弾け飛び
   少しばかりのこころの隙に
   すすっとすすっと忍び込み
   私のすべてを見透かして

   知らん顔で帰ってく

99/11/14


    夜の風景

   眠らぬ街にたどり着き
   止まぬ点滅ながめても
   病んだ君には行き逢えず
   くすんだ星に笑われた

   眠れる森に帰り着き
   震える音が教えても
   まだ見ぬ君には行き逢えず
   老いたミミズク笑うだけ

99/11/14


      あなたと

   恋が恋でなくなる時の音が聞こえる
   ひとりの夜は静かに過ぎて悲しくて

   静かな響きの静寂
   それは闇の音
   いちばん 嫌い
   いちばん 落ち着く
   哀しい音

99/11/14


       白い午後

   真っ白な便箋を開いて
   いつものように
   あなたに想いを馳せる

   「何から書こうか...」
   したためる言葉を嬉しく迷い
   笑顔のあなたが浮かんでる

   真っ白な心を開いて
   いつものように
   あなたの光を誘い込む

   雲の切れ間からそそぐ光で
   少し冷えた私を満たすために

99/11/11


    夕暮れ

   森の帰り道
   あなたが笑うから
   つられて笑った

   これ以上ないって笑顔で
   あなたが駆け出したから
   私も負けずに駆け出した

   琥珀色の空の下

   街も笑ってた

99/11/07


      見知らぬあなたでなく

   めぐり来ないはずのあの季節が
   今年は目の前にぶら下がってる

   出逢えてよかったと想い続けた
   忘れたはずのあの季節

   熱い高まりもなく
   湧き出る涙も何もない今
   ただ通り過ぎるだけのあの季節

   まだ見ぬ季節にめぐり逢いたい...

99/11/07


      呪文

   あなたをさらおうと決め
   電車に飛び乗った

   まだ難しい呪文は覚えてないけど
   何とかなるさとたかをくくって

   出来損ないの歌を刻むより
   あなたの距離を縮めたい

   夜の帳に街が包まれるその前に
   あなたを瞳に収めたい

   もうすぐ腕の中...


99/11/01


      晩秋

   深紅染め掛けたるさま
   秋の空を悲しく照らす
   かえで萌ゆるがごとし


99/11/01


       風、コンタクト。

   張り詰めた空気が
   ゆるやかに透き通り
   風が頬をかすめゆく

   凍てつく大地が
   奥の底まで染み込んで
   君想う心に突き刺さる

   昇る陽射しに君を重ねる

99/10/29


      目を閉じて

   乾いた時間を見つけたら
   あなたのくれたゆるやか心
   小箱を開けて取り出そう

99/10/29


    暮色

   肌にからんだ
   草いきれの森
   遥か消え失せ
   樹は錦織成し
   今まさに紅葉

   肌を焦がした
   灼熱の陽射し
   静かに遠のき
   柔らかな秋日
   今まさに落陽

   君のすべてが
   風に吹かれた

99/10/29


その時

思いきり駆け出したい時がある
「はぁはぁ」と息を切らして
すべての細胞達を入れ替える

自然と涙が溢れてくる時がある
流れる雫は拭わないまま
心の奥まで落とし込み蓄える

あなたの声を聞きたい時がある
優しい口からこぼれるささやきを
鼓膜のひだのひとつに刻み込む

99/10/19


ふたり

閉ざされた
虚ろな瞳は
君を遠ざけ

わからない
言葉の束が
君を悩ます

目の前には
笑顔を作る
優しい君が
99/10/15

黎明

木漏れ日が朝を割り
刺激され始めた乳白色

裂けた小枝が再生される
溢れた樹液がほとばしる

鳥は眼を見開き
羽を震わせ
山裾をすり抜けた
99/10/15

あの日

秋の冷たい雨に打たれながら
あの日の君の
笑顔を思い出しています

「お見送りの方は白線の内側まで..」
そんなアナウンスに
照れ笑いしながら君は
発車のベルが鳴るのに くちづけ
99/10/10

空へ

らせんの階段に戸惑いながら
みえない足元におののきながら

ひたすら駆け上がる

こぼれる直線が
胸をかすかに照らし反射し
闇に落ちる

あふれる曲線は
腕にかすかに触れゆがみ
闇を揺さぶる

流れる汗と
軽いめまいが心地いい

もうすぐそこは君の空
99/10/06

空虚

誰が種をまいたのか知らない
いつ根が張ったのかも知らない

人が人を傷つける

死を恐れるものたちが
引き金を引いている

死にし者は物と化し
今日また烏についばまれ
乾いた波に流され失せる

誰が種をまいたのだろう
いつ根が張ったのだろう
99/09/27

秋空

明けぬ夜はないと言う
止まぬ雨もないと言う

空気のような存在と人は言う
あうんの呼吸と人は言う

悲しみに泣き崩れる人がいる
悲しみを糧とできる人もいる

蒼い空の下
大事なあなたと
笑いたい
99/09/22

秋想

不可解な流れはうねりを増して
刹那の恋慕を押し倒し
是是非非を問い掛ける

こたえる術を知らぬまま

混じり溶け合い
深い虚無の色を垣間見た
君はまもなく朱に染まる

邪に覆われたこの森も
まもなく萌える朱に染まる
99/09/20

深淵

湧き出す泉で潤しながら
小雨の森をまさぐり歩く

小さな毒に犯されぬよう
堅い心を研ぎ澄まし
荒い息を押し殺し
赤い触手を切り落とす

祭られし神々は僅かに動き
脈打つ心を締め付ける

流れる汗は細かく千切れ
溜りの中に吸い寄せられた


明けぬ夜が染まるとき
静かな心は眠り入る
99/09/17

森の朝もや

閉じたまぶたに
夜明けの風がかさなり
あなたは乾いた唇を
冷たい夜つゆでしめらせた

湖畔の波は静かに寄せ
まもなく朱色が燃えたつだろう
あなたが旅立つまでの数時間
こうしてこのまま語らずに
ずっと瞳をみつめていたい

99/09/14


逢いたくて

時の森に迷い込み
まだ見ぬあなたを探すこと

それが昨日からの私の仕事
99/09/14

視線

両腕をすり抜けるため
しなやかに濡れる

瞳に吸い寄せられながら
体がこわばっていく

優しさを忘れた心が
今あなたにすべてをさらけ出す

99/09/14