____森のうた____
いまだこもりて
友が訪ねてくると気もそぞろ
枯れた草原に緑のペンキ
ぶちまける
ほら
こんなに暖かだよ
ほんとだよ
ほらほら
見て
ずっと
ずっと
見えるでしょ
ほらね
2006/4/25
なごりゆき
もうすぐ春だよ
それでもなごりゆき
やさしくなく吹きすさぶ
忘れそうなのに
半端な粒が頬にぶつかる
もうぐちゃぐちゃ
それでも
もうすぐ春だよ
2006/3/30
たわごと
影のわずかの移ろいは
時が流れたからでなく
迷いが少し晴れたから
気のめいる話
森の住人たちに聞かれたら
木漏れ日の束で押しやられ
さっさと帰れと笑われる
そんなちっぽけな話
散歩に出ようか
見晴らしの好い丘の上まで
2005/8/28
太陽と森
うららかな日差しは
速度を上げて
海抜ゼロに向かう
曖昧な語り掛けに
耳を傾けず
夜に向かう
暖かさを失った森は
風をまとった奇想曲で
悲しく強がる
このまま夜が明けないこと
きっと知らないで
2005/5/16
雪消
恋しいのは
森のかけら
恋焦がれるのは
君の心のかけら
雪消の流れは
速く冷たく
2005/4/11
静寂
時は止まり
深海に眠る
懐中時計
でも
歌は聞こえて
波は満ちて
月の欠片
飛び散る
屈折の光が沈んでも
ねじを巻くには
少し弱すぎた
2005/3/15
響く歌
透き通ったその声は
嘘だらけの夜に染み込んで
凍えて動かない影を
やさしく淡く包み込んだ
電気仕掛けのストーブじゃ
肌が乾いていくだけだった
こんな日は
朝の日差しの前に
薄い月が昇ること
その声に教えよう
2005/3/13
蒼い雨
あなたの見ている景色は
瞼を閉じるとそこにはないこと
知らなかったでしょ
私は知っていたよ
影は私の瞼をこじ開けて
なんども確認させたんだ
私だけしか知らない
あなたの見えていない
虚を
2005/2/26
あした |
2005/1/30
たまゆら
追い駆けて
それでも粉雪は優しくなくて
たまゆらの人
烏帽子のように降り積もった雪を
いたずらに壊しながら
境い目のなくなった世界
たまゆらの君
2005/1/28
冷たい手
バケツに入れた冷たい水に
遠くも眺めないで
誰のことも想わないで
かさかさになった手を浸した
寒い朝
ぴたりとも動かない
赤くなっていく
意識が遠のく
誰のことも想い出せない
2004/12/25
槌音
大地の歪みに鳥は
あかねに鳴き消え
大地の怒りに虫は
葉陰に隠れ消えた
だが人は弱く叫び
槌を持ち土に向い
眠る為の板を並べ
明日昇る日を待つ
2004/11/8
風のうたた寝
息を潜めた風に気づくほど
肌をさらしてはいないけど
柱時計で高いびきのそれには
いささか困り果て
ぜんまいのねじを巻く
2004/10/14
風の歴史
颯颯と耳にからまり消えた風
次に逢うのはいつだろうか
あしたか
あさってか
数千年先か
刹那に悲しみ
刹那に憂い
僕は生きている
2004/10/11
秋の雨
秋の澄んだ空を横切った雨は
忘れた原野の
踏み潰され
枯れた花に
染み込んだ
涙を汗と言い張った男の頬にも
頬に手を当て想う女の瞼にも
冷たくなった雨は染み込んだ
2004/10/8
静かな森
すべてを見透かすような
澄んだ瞳に映っているのは
深い森に落ちる木漏れ日だけ
太古の森が繰り返し朽ちて
ここに静寂を返してくれた
苔の下の歴史を知らずとも
ろ過された空気を吸う
そしてまた
木漏れ日が瞳にかぶさった
2004/10/6
しじまの風
すこし風が吹いた
止まり木がかたむいた
それでも眠りは深くて
友の鳴き声すら知らなかった
2004/10/5
夏の空
ほんとのこと
なにも知らない
のどが渇いたことや
ガラスが溶けたこと
はっきりわかっているのは
それがまだあるということ
2004/8/20
降臨
水面を覆う朝もやだけと知りながら
誰かに呼ばれた気がして振り返る
桂の木の根元から湧いた泉は
杉の林を滑り落ち、また
岩の間に伏せ消える
2004/7/26
風の原
雨上がりの草の原に
涼しげな風が吹き遊び
翠影の上で宙返りをする
人影は途絶えて久しく
名残の香り水も今は消え
ただ陽に任せて伸びた香草だけが
かつての風景をわずかに映しだし
碧空の上で散らばった
もどらぬものたち
そして私もまた
もどらぬもの
2004/6/13
円舞曲
今夜もこの森の深い霧の中で
仮面をつけた紳士淑女達が
おぼろの月に惑わされ
円舞の曲で時をきざむ
それは泡や影のよう
それは夢鏡をさまようよう
それは不機嫌な鹿が駆け出し
浅く刺す光を破るまでの束の間
おどり
よいしれ
ねむる
2004/5/11
川の中
私の目の上を
羽を怪我したかげろうが
あえぎながら流れていく
私は思わず頬ばった
あなたの忠告も聞かないで
2004/4/4
保持
未来の中に用意された椅子に座ると
私はわたしでなくなってしまい
大声でさけんでいる
陽の光がまぶしい
するとくちかけた言葉たちは
まるで小鳥の群れが飛立つかのように
ばさばさと生き返る
2004/3/31
林
また降った雪の林に放り出されて
私の関節たちは慌てふためき
あるいはもがき
細胞レベルの記憶をたどる
細い枝を支えにして
ずぼずぼと落ちても
それはそれで
2004/3/26
知識
何も知らない
知識のすべては柱時計と
池の見える景色だけだ
だけど動く仕組みを知らない
その深ささえ知らない
歯車をひとつ池の中に投げてみる
それは音もなく緑の淵へ消えていった
時は止まり
波も止まった
私は岸に立ち
水の鏡をのぞき見る
もうひとつ歯車を投げてみた
2004/3/19
猫の目線
誰かが忘れた
チェックの傘が転がる床に
ドアが開くたび
さらりと雪が忍び込む
2004/3/17
未成熟な帰路
私はまるで列車の行き先を
知らないかのような顔で
網棚の荷物の重さも忘れ
欠けた林檎を転がしていた
2004/3/17
早春
忘れたくない風景は消えた
ひとみの奥に焼きついたのは
悲しい別れの人
憂いの春の桃色の匂い
百千鳥
私にできること
忘れないで
海見つめ
星見つめ
2004/3/13
未知の大地
想い出を語りつくしたとき
あなたの髪の飾りの輝きが
仮に曇ったとしても
それはほんの少しの時間だけ
染めた空の星に化けた夜光虫が
あなたの瞳に入り込み
仮に反射したとしても
誰もそのありのままを責めはしない
ただひとりの人ゆえ
崖のふちに立てば唇ふるえ
波に目やれば足元すくむ
未知の大地を進め
ただひとりの人よ
2004/3/4
遠くの今日
風がくるくるまわってる
動けない私をいたわっているのか
動けと囃し立てているのか
話さない私が気がかりなのか
話せない私をあざけているのか
笑わない私に興味を持ったのか
笑えない私をいぶかしがっているのか
それとも
風はきのうの私か
2004/3/4
岩屋
寒い寒い夜
怖れと安らぎが交錯する
それはそれは遥かの昔から
折れ曲がり
折れ曲がり
消えろ消えろと掃き祈る
現れ出でよと念祈る
たとえ神がいなくとも
2004/2/28
雪の町
大粒の雪がかぶさり
小さな足跡を消して行く
どこから来たのかわからなくなる
マネキンは質問に答えてくれないし
やせた犬は眠ってしまった
傘のない女は走り去り
老人は青信号を眺めているだけ
どこに行こう
誰も踏んでない真っ白道
2004/2/28
夕景
何も考えないまま
何も知ろうとしないまま
いくつもの街が流れて
いつもの駅にたどり着いた
振り返らない
でも前を見据えもしない
漫然といつもの景色を
眺めるだけ
暮れない空に響く恋歌は
遥かの悲しみ
闇を待つ星たちのように
少し心揺れた
2004/2/22
未来の記憶
地下室に足を踏み入れる
そこには未来の記憶があふれ
遠い風景が散らばり
窓ガラスにぶつかり飛んでいた
小さな窓からの光は丸く
曇った銀の燭台を照らし
目覚めぬ影の中の心を包み込んだ
2004/2/20
今
ほかのことは考えないようにしていた
きのう小さな石ころにつまづいたこと
おととい冷たい雨に打たれたこと
あした森の中で迷うかもしれないこと
あさってひとりの夜に涙するかもしれないこと
今だけでいいって
それだけで充分生きていけるのだから
2004/2/10
想い出
指の間からこぼれ落ちるのは
計り知れない打ち寄せる波の音
2004/2/10
テラス
あなたはいつもここで何を想っていたのか
そんなあなたをいつから私は想っていたのか
朝もやの流れが止まり
陽が暖かな流れをかもす
あなたは今日もここでたたずむ
私も今日はここでたたずもう
03/11/4
雪待月
今夜はとても寒くて寂しい夜です
灰色の雲に見え隠れする君がいます
私は暖かな布団に包まっています
もうすぐ眠らねばいけません
豆電球が夢に誘ってくれます
君の夢を見たいと思っています
目覚めたら一面の雪でしょう
そして君は薄くなった姿で
遠くから私に別れを告げるのですね
02/12/03
途方
そして私は迷い始めた
切り株を見ても判らず
星を見ても判らなくなっていた
切り立つ岩壁は叫ばず
その先の空は私より青かった
枯れ葉の下の虫達は重なり
すでに丸く静かに春を待っている
私はさらに迷いながら
白日に身をさらすのか
02/12/03
なんにも
少し冷たくなった風のせい
街の灯りが揺らめくせい
それともあなたの愁いのせい
忘れたはずのあなたと
なんとなく最後の夜でした
なんにも語らず
涙も流さず
いつものソファーに腰掛けて
壊れたテレビ見つめてた
静かに明ける最後の夜でした
02/09/18
秋の初めに
雲、薄く高く
眉、薄く細く
姿、薄くおぼろ
想い、遥か遠く
乱れ、傷心す
涙、すでに枯れ
季節のみ巡り来る
02/09/07
サイドカー
そんな名前だったっけ
耳の底にオレンジが流れ
瞳の奥には甘いブランデー
スタンダードの軽い響きに
ぜんぶ忘れたのかもしれないのに
みどりの灯りが今も少しまぶしい
明後日、あなたは少し遠くへ
明後日、わたしも少し遠くへ
サイドカー
そんな名前だったっけ
02/09/07
季節の終わりに
私が今までいた満たされた部屋で
学んだことといえば
あなたの自由を奪い
あなたを孤独にするという
ことだけだった
あなたの沈黙の息づかいを
心地よいものと理解していた
私が今いる空っぽの部屋には
音も無く声もない
ただキィーンとした空気の中で
魂が半分の私が机に向かっている
削げ落ちた頬に甘い夏が
明日を問い掛けるも
私は曖昧な答えしか
導き出せないままだ
あなたに何を語ろう
そうだ無口になろう
半分の私が何を語れよう
優しさを保てるだろうか
02/08/25
無言
釣りあわない言葉で
岩を雨がたたく
無意識の内の無言
そう、沈黙
灼熱に色あせて
見つけられない
無心に打ち寄せる波も
不意に記憶から消え
何もかもの過去の存在を
詩人の言葉でおぎなう
02/08/25
みどり
悲しみを忘れた
妖精達が
朝露をからませ
森の静寂を泳ぎだす
苦しみを蹴飛ばした
妖精達は
恋色の葉っぱをまとい
午後の陽射しをすり抜ける
やみ雲なのを誇りに思い
純粋なのをひけらかし
02/08/25
二度目も雨、でも
森の美術館で小さな虹が
私たちを出迎えた
草のにおいをまとい絵に見入る
あなたの心が躍っている
この絵のように時間を止めて
この絵の人にあなたを重ねる
ピカソが笑ったのか
真顔のあなたがほほ笑んだから
笑顔のあなたの奥を覗き見る
三度目はきっと木漏れ日の中
02/07/09
黒百合
かすかな香り
気がつけば山深く
道端にクロユリ
限りなく黒に近い花を開いて
それは可憐に私を見つめる
休み休みの旅の風景
02/07/09
埋もれる言葉たち
最後のあがきで音になる言葉たち
あなたに届くだろうか
真実の想いが届くだろうか
砂に埋もれるその前に
02/07/09
雨の日に逢った人
今日出逢ったあなたと語る
うたかたの恋のよう
雨は今宵止むはずも無く
あなたの部屋の灯かりに
誘われるもそれも束の間
波の音が細い雨に重なる
まさに束の間
まさにウタカタ
また逢うことなどなくていい
砂に書いたあの文字は
波に消され
雨に消され
涙に消され
02/07/09
橋
あの橋を渡ったのはいつだったか
確かに私の記憶ができる前のこと
確かに私に名前がつく前のこと
それは幼い好奇心
小さな庭しか知らない
小さな空しか見えない
あの橋を渡ったのはいつだったか
02/07/09
萌ゆる朝
夜明け前の霧雨はやみ
磨かれた緑が踊る
雲間からの光の束は
露とたわむれ弾ける
ねじれた昨日の空気は
私の視野の底で失せた
萌える朝を闊歩する
02/07/09
転生
今夜生まれ変わります
あなたがそう言うから
私もついていくのです
昨日までを捨てるのではなく
新しい色彩を知りたいのです
見たことのない輝きが
そこにあると信じて
星空を町から仰ぎます
02/05/12
木の皮
生き生きした木ではない
それは半分雪に埋もれ
葉も実も虫もなにも無く
皮だけが張りついている
人は飢えに耐えられず
かさかさに乾いた手で
むしり子の口に向ける
別の人は道の雪を除く
小麦粉の道を造るため
子の腹を夢で満たすため
子の瞳に明日を映すため
また別の人はただ思う
いつものようになにもせず
雪が解けると全てを忘れる、と
02/03/23
朗報
明日から良い知らせが届いた
なにも心配要らないよ、と
明日は私のしょげた顔を
どっかで覗き見したようだ
明日に早速返事を書こう
あしたになる前に返事を書こう
とってもうれしかった
ありがとう見ていてくれて
02/03/23
曇天
なにを無くしたのか知らないが
あそこにはもう残っていない
白い歩道をひとり
弾まない音を踏み
前かがみで襟を立て
すべてを拒み
昨日に向かうことはない
曇天の空だから気が滅入る
すべてはあなたの思い過ごし
02/03/23
あなたの足を
今度は必ず虚像ではない
あなただと信じるために
その偽りの言葉を
ロウソクのすすで曇らせよう
そしてもし許されるなら
あなたの足を洗おう
私のくすみは取れなくても
あなたの足を洗おう
02/01/30
初冬の一日
夜が逝き朝が目覚める
冷たい空気が届くと
森の静寂の音がした
朝は足早で昼に流るる
温かな便りの音がすると
きのうの笑顔が香った
昼の輝きは夜を深め
静かな一編の詩が流れ
今に酔い
今のあなたを読む
そんな一日
ほかに何もなく
02/01/30
しんしんと
いさぎよい寒さに肌をさらす
忘れられたキャベツ畑が凍って
冷たい道がガタガタと笑う
澄んだ瞳の女と夢を見ると
言葉がしんしんと膝まで積もり
かすむ街には辿りつけそうにない
01/12/12
錯誤
何をすればいいのかわからなくなって
夏から伸ばした髪を切った
何をすればいいのかわからなくなって
夕日に長く伸びる影を切った
何をすればいいのかわからなくなって
夢を繋いでいた電話の線を切った
それでも答えは見つからず
ばらばらの今日を引っ付けながら
私はまた詩を書き始める
01/12/12
まるで映画のような
まるで映画だといって
口を真一文字にむすんだ
そして壊れ
そして争い
そして逃げ出し
そして苦しむ
こんど耳にする時は
まるで映画のような恋、がいい
そんな素敵なたとえがいい
01/12/03
愁いの中
弦が切れたことを隠し
奏で続けた
うまく誤魔化したのか
だれも聴いていないのか
どちらでもいい
悲しいのは
ただ
争いがある事実と
優しさがない事実
01/12/03
雪の前に
落葉松の森が知らぬ間に黄金
遠くで冷たい風が遊び
枯れた葉を引っ張っている
もうすぐ冬
きっと長い冬
肩をすぼめ君の声を聴く
小さく木霊する
君の声を聴く
埋もれよう
降り積もる前に
温かな土の中に
01/11/01
けっとばそ
くやしさけっとばして
夢、おっかけてたら
あしたがね
きっと
くっきりしてくるよ
01/11/01
凍えるような水
雪が舞いそうな午後
白い息に向かって
川の水がはね
私は冷たくて痛くて
でも温まるにも火はなく
告げるにも人は居ず
ただ雲が切れるのを待つ
秋もただなかのせせらぎ
01/11/01
かすりきず
貶めたりしたことないか
まして争いが始まっている中で
まして小さなかすり傷
なにをためらう
ばんそうこうを借りてこい
01/11/01
物語のあらすじ
強さに欠けていて
勇気が足りなくて
だからそのまま後戻りできなくて
どうしようもなく
コーヒーカップの口紅も
拭うことさえ出来なかった
確かに大人になりきれなかっただけなのだろう
お金の問題ではないことなんて
わかっていても
赤いタイトに足を通すことなど二度とない
消えることさえ出来ないままの私
寒い寒い冬がくる前にと思い
新しい物語を読み始めた
それはそれは悲しい別れの話
01/10/15
秋の一日
生きることについていつまでも
考えていたら日が暮れてしまった
この続きは明日にしようとしても
夕食がまだできていないから
寝るにも寝れない
ただウイスキーだけでも
いいのだけれど
おなかが減っていては
明日の目覚めがよくないので
しかたなく七輪で秋刀魚を焼く
もうすぐ木々も裸になるころ
私の秋の一日
01/10/15
顔の崩れた案山子
目を離した隙に隣にいた顔の崩れた案山子の口が動いた
葉のこすれる音を案山子の声に置き換えてみると
それは決して歓喜の叫びでも悲痛な訴えでも無かったが
わたしの心の淵に染み込んで深い藍に木霊した
私の濁りを消しながらいつまでも木霊した
目を離した隙に穏やかな顔になっていた案山子は消えた
今私はまた一人なって葉のこすれる音に耳を傾けている
01/10/15
このとき
早い朝に出て木々に体を浸すと
すでに息は白く大地もまた白く
静寂の中から一日が湧き出てくる
この空気を喜んでいる私も
わずか数分の後には怒涛の中で
すべてを忘れてしまうだろう
それもかまわない
毎日のこの瞬間が今の私には
どうしても不可欠なのだから
01/09/28
風が吹いて
このまま風の音を聴いていたら
すべてを洗い流すことができるだろうか
引っかかっている些細な怒りや悲しみ達を
語り及ばない涙の源と共に
風が行き先を見つけるころには
私もあなたのところに辿りついていたい
正義を見つめ続ける瞳が
傷つくことなく疑うことなく存在し
夢でなくその地で私を待っているのだから
01/09/25
腐葉土
めぶき、しげり、もえ、おちる
これでおわりではない
これからが私のやくめ
湧き上がる雲に心ゆれ
ひとり沈む太陽に涙しても
かさなり、かさなり、土になる
なにも知らなくていい
そのまま眠りなさい
そのほほ笑みのままで
01/09/25
本当
ポプラの並木も
ナナカマドも反応している
私もちぢこまる
心とは別の世界で
支えが崩れ落ち
私の知らない人が泣き
ほこりにまみれている
すべてがほんとうなのです
あなたもほんとうなのです
私も実はほんとうなのです
01/09/18
粘土
まずは首を練り上げる
シマウマのそれでもいいし
ジャコウウシのそれでもいい
顔は気難しい牧師にして
一点を見つめる
それは私を見つめる
それは心を見透かす
私は鐘の音に
かすかに反応しながら
さらけ出す
自身の造作であるそれに
なにもかものすべてを
それが心を宿す前に
なにもかものすべてを
01/09/11
目蓋
隠された澄んだ瞳の奥で
あなたはなにを見ている
雨に打たれ落ちる白樺の葉か
間違いだらけの道標か
消えかけの霧の行く末か
何かが飛んだ茜の空か
白に戻った秋の手のひらか
まぶたを私にください
遥かの昔の今宵
私があなたから生まれた今宵
あなたの景色に重なりたい
01/09/09
夏の雪
緑に染められた大地に
雪野原が重なったのは
雨上りの青空のせい
雲の清々しさのせい
吹雪の夜には寝ていた
何も考えず、ひたすら
夏の空の下に雪野原
旅立つ人を見送り
私もまた違う道に立つ
消えない道を思いつつ
見えない道を見据える
01/09/09
葉月が終わる時
ここはすでに冷たい風が渡り始め
君がどうなったのか
やさしさに包まれたい時なのに
涙があふれこぼれ
すべては酔いの中
すべては夢の中
なのか
むさぼりたくて
森の中、放浪
脱け殻が染められ
夕日に染められ
ただ君に思い馳せ
見つけられず
霧は深くとも
透明の露に葉月終わる
01/08/27
忘れ物
あなたの消し忘れた夢が
軒下で今日も揺れている
あなたの瞳の優しさそのままに
淡い光りを放ちながら
私は木星が月に隠れる事も知らず
つまらない夢の中にいた
こんなことなら眠らなかったのに
などと後悔しながら
それなのにあなたはもういない
夏が過ぎ秋が過ぎ冬になっても
ただ揺れるだけ
ただ放つだけ
01/08/18
漂うだけでは
私だけが見ていた夜明けのとき
二度と戻らないこの旅の途中で
多くを語らない森の長老たちが
一つも許さない厳しい姿勢保全
微塵も揺るがないあなたの信念
零には帰れないこれからの私は
漂う波ではない
01/06/25
海を出た日
私が初めて陸に上がったとき
あなたはすでに森に暮していた
私は遠くでざわめく葉の音にあこがれ
ひれをあやつった
潮溜まりで一息も二息もつきながら
目指すあなたは黙っても
葉の音だけを頼りに向かった
透明な風ノ流れる
遥かの森を
01/06/25
脈打つ喜び
ごくごく普通に脈打つ喜び
昔に夜が明けなかったこと
それすら忘れてしまった
少しも何もひとつも君も
枠の外で影さえ見えない
混沌ではなく湖の鏡面
脈打つ喜び
脈打つ喜び
他に何もいらない
森の叫びすらも
01/06/04
遥かに
清清しい音が機械から流れ
忘れたはずの大地ふたたび
酷寒を歩いたあなたの心は
埋もれてしまった自由の道
二度と戻らない旅した笑顔
まっすぐに生きた証しだけ
01/06/04
靄の下から
毎日靄が掛かる曲がり角
逸らした心から柳の花が舞うも
谷の下を覗く勇気などなくて
道端の黄色い花に春だけ
ほかに何も気づかずに
01/05/31
あなたが風なら
あなたが風ならわかるかな
わたしのこと
あなたと同じに空を翔け
旅する鳥に学んでいる
わたしのことを
あなたと同じに地上を眺め
悲しい戦いを直視しなければならない
わたしのことを
あなたと同じ今日を見つめ
笑ったり泣いたりしている
わたしのことを
あなたと同じ海を渡り
生まれる前のことを思い出している
わたしのことを
あなたと同じ夜にさ迷い
スピカの前で立ち止まっている
わたしのことを
01/05/21
ありがとう
喜びに満ちたあなたの足取りに
わたしは少し戸惑いながら
落葉松の山に落ちていく
赤い赤い夕日を見送ったのです
遠くに思いを馳せながら
苦しかったあの日々もまた
とてもとても大事だったこと
口にしないまでも
今ほんとうにそう思えるのです
夢を果たしたわけじゃないけれど
こうしてあなたとお酒を飲んで
消えない炎に照らされていると
やっぱり涙があふれてくるのです
すべてすべてあなたのお陰
心の底から伝えます
ありがとうの言の葉を
01/05/16
春の雪
唐突に春の雪
名前も知らぬ花を覆い
私の影にもかぶさる
疑いの陽の光
すべてを解かすことをせず
不完全に時間を費やす
何食わぬ顔の鳥
濡れた毛をつくろい
森の朝に高く羽ばたく
01/05/08
静かに
そんなに私を見つめないで
明日のために生きてるわけじゃないから
崩れそうな今日のこのとき
負けないように
ただ
肩のチカラをできるだけ抜いて
あんまり先を追うことしないで
ただ
時の流れのそのままになんて
だから
私のそばにいて
そっと背中をつけて
そっと耳打ちして
そしてやっぱり
私を見つめて
01/04/25
少しの焦燥
あれからまだ少ししかたっていない
それでも少しもおぼえていない
少しのよろこびと少しのかなしみが
たしかにそこにあったはずなのに
どうしてしまったのか
わたしの少しのさいぼうたちは
それでも少し酔ってしまうと
少しおだやかになって
だれにといかけることもしなくなり
少しのあせりもきえ
少しだけ笑顔がもどった
01/03/29
夜にひとり
あなたがいない夜だから
何も返ってくる筈ないのに
もうすぐ朝というのに
黒と赤のすき間に消えたあなたは
このまま帰らないつもりか
そんなことわかってるのに
なぜに眠らない
01/03/29
ほんとを
春の嵐が雪を頬に当て
涙が横に飛び君が叫ぶ
鼻も耳も千切れそうで
きっと息も絶え絶えだろうに
それでも未だ楽しげに
明るい笑顔で雪を蹴る
なぜにそんなに踏ん張る
うずくまってもいいのに
明日という日が見えるのなら
すぐにでも君に知らしめて
伝う涙、薄橙のハンカチで拭うのに
今、君の声を聴きたい
底でうごめくほんとの声を
01/03/22
したたる
あたたまった羽のしたで
森の露をのみほしながら
うすいうすい桜のいろを
あきもせずもてあそんで
こたえる声に耳をすます
眠そうなミミズクでさえ
朝を待ちわびているのに
私は他になにもいらない
波立つ季節と知ってたら
踏み込まなかったろうに
今では
溺れることもいとわない
そんな深い闇のなかこそ
今では
私のゆいいつの安息の地
01/03/22
君の瞳には
どんなに空が蒼くても
どんなに野に花が咲き乱れても
君には何ひとつ映らない
苦しみ、もがく君に
何の言葉を掛けれよう
変わらない瞳の輝きは
深い悲しみを覆い余りある
明るい笑い声は
動かぬ体を包み余りある
素敵に舞い、駈ける君には
きっとすべてが見えているのだろう
私などには到底見えない
ほんとうの時の流れというのものが
01/03/22
再構築
夢が白んだ朝にあなたはたたずむ
成熟するかに見えたその夢が
粉々になり床に散らばっている
これで今を見失ってしまいそうなら
とがった欠片達の一ツ一ツを拾い上げ
もう一度だけ組み立ててみようよ
角を丸く磨き上げ
昨日までの余白を見直し
少しだけ工夫を加え
融けた欠片は新しく作り直して
ジグソーパズルのように
時間を掛けて
そしてすべてが揃ったら
オークの樽に詰め込んで
少しの間寝かせよう
焦るな焦るな
あとは時間が何とかしてくれる
すべてを信じよう、すべてを
01/03/22
琥珀の中で
蚊も蓮も琥珀に溶け
進化を受け継いだ
私も琥珀に溶けたなら
遠く形を無くした青い星で
誰かが解いてくれるだろうか
綺麗な顔をしていたことを
なぐさめを叩いたことを
進化しなかった歴史を
01/02/19
朦朧(もうろう)
かぜ薬で眠くなる
枝から落ちた雪をかむ
晴れ間に遊ぶ薄雲をちぎる
ストンと夢の中
01/02/19
最後の粉雪
冷めた紅茶の苦い朝、帰り道
君と汽笛、ひびき立ち止まり
かじかんだ夢に息、吹きかけ
振り返らず、空のみ見上げる
二度目の春の風、吹かないと
かすかに予感、列車がうねり
心よじれ、倒れる人が波打つ
別れの際の言葉、意味を知り
引っかかる足元、伏せた瞼に
淡い粉雪は映らず、涙も忘れ
引き返すも忘れ、森のみ想う
終焉の時は呆気なく、そして
静かでなにもなく、ただ粉雪
01/02/19
捨てた鍵
鍵がない
ないのではない
捨てたのだ
でも形は覚えてる
君に教えたら
複製が作れるかな
そうならお願いしたい
君には見て欲しい
私の過去の心の扉の奥を
01/02/19
虚脱
頬杖を突きながら嘘を吐いてた
思いのすべてを消していた
なけなしの恋にすがってた
とっくに涙は擦り切れたのに
それでも悲しい歌をうそぶいた
01/02/19
森へ
テントひとつ背負い、森を行く
地図を忍ばせ、コンパス忍ばせ
奥に住むと言う、君に逢うが為
君には羽があるのか
君には角があるのか
輝く瞳はあるのか
濡れた唇はあるのか
それとも何もないのか
それとも君はいないのか
01/02/19
桜いろ
涙でコーティングしよう
色あせないように桜貝
空の青に負けないように
海の緑に負けないように
言葉をどれほど上書きしても
消せないあの日
色あせないように桜貝
01/02/19
雨の海
ここは冬でも雨になる
僕が詩を書こうとすると
波の音がした
透明のビニール傘が
白い雨粒を保って
さっきの景色を忘れない
備え付けの便せん
文字は少し大きめに
書き終わったら
君が崩れたから
なんだかそんな夜
雨の海に逢えてよかった
01/02/13
春への想い
遠い深い夢の中
星の空に書いた文字は途切れ
カリストの涙でかき消され
暗い深い闇の中
ひと滴の光が流れ
星の砂の浜辺で再生され
それは哀しげで物憂げで
愛を語るには寂しすぎ
君を語るには頼りなく
01/02/09
宵の生成
森が青に染められる浅い宵
薄氷の深き湖に紫を乗せ
浮かぶ目印にする
冷たい湿地は灰にざらつき
打ち消した明日を引きずる
裂ける沼は黒に沈み
手探りの今を難解にする
空を翔けた者はすでに眠り
霞みつつの夢にすがる
やすらぎの炎は
瞬きの中に喪失
滴りながら凍りつく思い
取り外せない虚構の時
涙の鎧が完成する
01/01/23
白い落ち葉
肩肘なんか張んないで
自然のまんま心のまんま
すべてすべて受け止めて
大きな白い森の中
一緒に生きて一緒に歩こう
雪野に落ちた木の葉さえ
きっとあしたに夢描いているよ
悲しい日もある
痛い日もある
笑える日もあるよ
だから恋
だから楽しい
だから人生
01/01/12
静かな椅子
凍える冷たい朝に
遠くの風を感じたら
淋しくなった街路樹に
寂しい瞳でもたれてた
あの日の君を思い出す
温かなモカを落とすと
動かない空気の中から
まっすぐにまっ白い湯気
あの日の君が向こう側
少し眠そに笑ってた
わずかの風に消されても
膜の下に焼き付けたまま
香りと一緒に閉じ込めて
深く静かに椅子に掛け
深く静かな君を訪ねる
01/01/12
ぽっかり穴
ぽっかり穴から風が吹く
大きなひとみが枯れたから
見しらぬ穴から風が吹く
もいちど苗から始めよか
みだれた風が心地よく
みだれた心をかきまわす
いつしか大きくしげったら
いつしか風も収まって
いつしか心も治まって
穴のすがたも見うしない
00/12/19
大丈夫
あなたが知らない私と
私が知らないあなたが
明日の街で出逢っても
なにも心配要らないよ
顔も知ってるし
目の色も知ってるし
涙も形も知ってるから
大丈夫
00/12/13
半分の月
残り少なの言葉を束ねる夜
半分の月が張り付いた
輝きは凍える空気を伝え
指先を重い結晶が覆う
遠く消えていく予感
わずかの焦燥
凪の海に分けた体を浮かべ
優しさの昴に語っても
ほえる獅子と走り去る
もう炎にかざすだけ
もう眠りにゆだねるだけ
00/12/13
初雪
とても寒い朝
昨日の仲間と遊んでる
一粒も消えないで
くるくると
でも、束の間
根雪には時が早い
根雪には心が幼い
根雪には君が遠い
今度は一月の雪になる
00/12/07
汽水
汽水に生まれ育った私は
上流の生まれたての純白も知らず
この先の大海原の深蒼も知らない
どうすればいい
なにをすればいい
居心地は悪くない
このよどみも嫌いじゃない
ここから動くと生きていけないこと
知っているけど
どうすればいい
なにをすればいい
00/12/02
闇の奥から
漆黒の夜の果てに置かれた門を辿る
悲哀と恐怖と孤独を払いのけるため
一心に扉を開くがそこは更なる深い闇が
目的のない夢たちを支配していた
先人の枯れたな涙の跡がかすかに道を照らし
またしても私を放浪へと誘惑する
引き返すのも手と躊躇するが
それをうとましく思う別の私が先を急がせた
幾ばくかの望みさえ持てば進めると心し
両手を目の高さに保ち、掲げ、暗中模索
わずかの明かりに過敏に反応してしまう
滑稽だがそれも仕方がない
小枝に傷つきながらも
小石にさえつまずきながらも
「いつの時代も誰もがこれを繰り返した」と
そんなことを考えながら狂った磁石を見つめ
いつにない軽い足取りに驚きながら
腕の時計を捨てて更に闇の奥へと彷徨う
00/12/02
あなたへ
あなたが追うべきものは
あのときの悲しい道化の顔じゃない
あそこに置き忘れたサクラ貝でもない
あなたの見つめるべきものは
あの子が持つ夢がつまった風船と
あの子と歩く道に咲くタンポポ
あんなにまであこがれた明日を
あきらめるなんて言わないで
00/11/10
寒い部屋
寒い日には何もかもが急ぎ足でやって来て
ばたばたと残りのすべてを取り去っていく
なにも考えないで居れたらいいんだけど
それほど私の心は乾いていないし
がらんとした空気にさらされた足先を
電気ストーブのオレンジの熱で暖める
00/11/10
うたた寝準備
紫式部を清楚に飾る
バッハのフーガを流し
いつからかの額を外す
落ちないはずの時計を転がし
欠けたグラスを薬指でなぞる
ウイスキーは相変らずで
喉の底でくすみ燃え落ちる
へこんだソファーに眠ると
いつもの夢の続きが始まる
00/11/10
風の中で
怒涛のごとく風が吹く
私の頬に小枝をかすめ
冷たい砂が両目を覆う
後戻りしたくなかった
帽子に手を当て、全身を風に向ける
パタパタと背中の何かが飛ばされた
汗を拭いた赤いバンダナだろうか
風はまだ止まない
もう少し我慢だ
00/11/03
空の向こう
こんなにも空が澄んでいる
悲しみは遥かに置いてきた
今ごろはきっと静かな海の底で
足の長いカニがつついているよ
胃薬は当分いらないから
捨てることにしよう
ついでに手紙の束もいさぎよく
遠い思い出ではない明日が
「早くおいでよ」って
手招きしてるのを見かけたから
軽いスニーカーに履き替える
00/11/03
苦悩
あなたの涙のような雨が
冷たく木々を濡らしている
怖いの
彼女は避けられない淵に立ち
身動きひとつ出来ないで
ひとり苦しんだ
私はそっと腕を引き寄せるだけで
いいのか
せめて
すべてが成功すること
それだけ
祈るだけ、それだけ
00/10/07
曇秋
冷たい朝の光の中
すでに季節は移りすぎ
研ぎ澄ました心の針に
濡れた綿毛は重たく
絹の雲には届かない
これ以上の術もなく
釈然としない空の色に
染め続けた予感も
鮮やかさを失いつつある
00/10/07
隘路 (あいろ)
切り立った両壁からは
絶えず小石が落ちてくるのに
今すぐこの断崖の道を
越えないといけないのか
どうしてそんな危険を
冒してまで先を急ぐのか
日が沈むころ風もやみ
きっと優しい道に変わるから
しばらく私と明日を語りながら
時間をつぶしてみないか
00/09/16
中央出口
私の知らない季節から
私の知らないあの朝から
物語は静かに進んでいた
雑踏に浮かんで静止する君
アナウンスの音もなくなり
押しのけて進む人々も消えた
まるで映画の特殊効果のよう
すれ違いの簡単な筋書き
自動改札のゲートが開いたら
きっとあなたは消えている
00/08/29
のそのそ
原っぱは時間がカメみたい
仰向けで見る雲もカメみたい
草を揺らす風が波打ちながら
ざわざわと私を追い越した
そしたら知らないあいだに
私もカメになって歩きだし
雲のカメにあいさつしてた
たまにカメも悪くない
日溜まりをのそのそ歩く
00/08/29
夕立のあと
雷が遠のいたら
光るしずくで森はきらきら
ずぶぬれでも平気だ
ヒマワリになって空を向く
雨上がりは陽射しも肌にやさしい
汗も涙もどんどん乾いてく
00/08/29
森で想う
森に一歩踏み入ると
ささやきが聞こえる
肌が緊張する
深い想いのすえ
もうこれでいいと・・
無口な雲を意識した
そんな静かな夏の午後
不思議なささやき
00/07/26
海で想う
膝の上に置いた私の手を
飽きもせずいじりながら
明日の語りを続けている
朱色に染まる海岸線には
旅のカモメが群れ飛んで
見上げる額に汗が光った
そんな流れる夏の午後
優しい恥じらい
00/07/26
心の大きさ
心に余裕が出来たっていうのは
心から何かが消えたとき
でも何かが一個入るとまた溢れそうになる
心の大きさってたいしたことないんだ
あえて言えば小さいんだ
それが悪いのかどうかわからない
大きすぎても大変かもしれないし
三個くらいは入るのかな
一個の大きさにも関係あるのかな
00/07/20
誘惑
あなたが巧みに誘うから
いつしかこんな遠くまで
あなたが嘘泣きするから
いつしかこんな近くまで
ここが夏の海でよかった
夏の太陽の下でよかった
キラキラしててよかった
00/07/20
水の音
日溜まりに腰掛けていると
樹のなかを流れる水の音が
鮮明に聞こえてくることがある
先端の葉まで届ける力が
この静かな容姿のどこに
蓄えられているのか
想い及ばないが
確実に休むことなく
繰り返されている
そして
息をひそめ、前を見据え
動き出す光と影を
待ちつづけている
日溜まりに腰掛けていると
別の世界の音が聞こえてくることがある
00/07/12
デッサン
あなたをなぞった木炭のかけらで
暖炉を燃やした
あなたを消した食パンのかけらは
私の空腹を満たした
そして、あなたを恋した小さな心は
切手を貼らずに旅に出た
完成したけど白黒のデッサンだから
たとえば私にちょうどいい
00/07/12
演技者
心を閉ざしたあの日から
いつしか悲劇のヒロインで
笑顔もどこかに置き忘れ
乾いた舞台で嘘泣きしてた
希望の意味さえ知らぬまま
うずくまるのが癖になり
身じろぎもせず
半開きの瞳に
悲しみだけを焼きつけた
誰も鍵などかけてない
鉄の扉も重くないのに
00/07/12
春の歌
時計台の下を通り過ぎ
公園通りに出る頃
春の風がすり抜けた街並みに
確かに残したふたりの足跡も
伸びた夕日と遊んでる
行き交う人が楽しげなのは
きっと、あなたの笑顔のせい
夕暮れにこんなに輝いて
思わず足が軽やかで
明日のことは知らないままでも
流れるメロディ、静かに歌う
00/07/12
蝶
何かが窓の外を横切った
気になったのでそのまま見てた
そしたらもどってきた
ひらひら紋白蝶だった
しばらく花の周りを飛んでいた
そして少し高く上がった
低い雲と重なって見えなくなった
それから花は青い実をつけた
それから紋白蝶は来なかった
00/07/09
歩いて
歩いて歩いてまた歩いて
疲れたらすこし休んで
なぜ歩いてるか忘れたら
木かげでまた休んで
それでも思い出せなかったら
となりの人に聞いてみて
その人を好きになったら
右手をそっと差し出して
微笑みが帰ってきたら
今度はふたりで歩いて
00/07/09
風を描いて
光の中に溶けていく不安
未完成に見せかけた絵画のように
誰にも理解されなくてもいい
重ねた蒼と白から風が吹けば
それでいい
パラソルに隠れた瞳を見つけたら
それでいい
風下に立つ陽炎がモザイクでも
ほどけたスカーフを見失わないから
光の中から生まれた希望
00/06/26
霧の森
霧に囲まれた森は多くを語らない
「あなたの思うままに」と
私を少し冷たい感じで突き放す
視界の悪い道をさまよえというのだ
自分でちゃんと考えろというのだ
時には深く掘り下げろというのだ
人の心の痛みを感じろというのだ
涙の意味を察しろというのだ
ならば焦らずそれに従おう
00/06/26
ハルニレの道
きのうは風と雨が強かった
ハルニレの葉は斜めで
水たまりも斜めで
差す傘も斜めで
歩きにくくて
君も居なくて
小雨になっても
葉っぱの露で濡れて
服も冷たくなって
足も泥んこで
変わらず歩きにくくて
変わらず君も居なくて
00/06/22
カエルの行進
とある梅雨の日、かえるの行進
2番目のカエルがつまずいた
3番目のカエルもつまずいた
そのまた後ろのカエルもつまずいた
そして一番後ろのカエルもつまずいた
先頭のカエルがそれを見て笑った
つまずいたカエル達も笑った
カエルの行進、みんな笑った
00/06/16
ただひたすら
ひたすら心を隠した
耳がちぎれるほどに
知らなくていいと思った
あなたさえいればいいと
00/06/16
静かにさよなら
嘘を笑ったあの日から
明日につまずくその前に
少しずつ私をけずった
あのメロディーが流れても
消えそうな夕日が誘っても
さよならだけが聞こえない
00/06/16
涙で眠る
こんな雨の日は遠い道
街路樹の下で小さく消える
ほんの少しだけ見えない形
それがありがとうの訳なの
どんな時も輝いていたいと
しなやかに語ったあなた
濡れて流れる坂道で
切ない曲を見つめる
細い糸の上には遠い空
あなたの涙で眠りたい
00/06/10
線路の上で
スケッチブックを時刻表に重ね列車に乗った
約束の季節はとっくに終わっていたけど
磨り減ったクレパスは網棚でカタカタ鳴っている
古びた車内はガタガタと小さく揺れて
塗り重ねたペンキは剥がれ落ちる
大きな荷物の老婆はそれに目をやり
そしてまた窓の外の遠くの景色に戻した
00/06/10
森を散歩
真っ暗闇で転んで飛んだら
あちこちすりむいた
キツネが草の陰で笑ってた
ウサギもつられて笑ってた
私もつられて笑ったけれど
きずが少し痛かった
ぽんぽんとほこりをはらって
知らん顔で歩きだす
手を大きく振った
足を高く上げた
月明かりも出てきた
もう大丈夫
00/06/10
帰る人
移り往く季節の風を君は知らない
置き去りにした椅子に腰をかけ
遠くを走る郵便配達人を眺める
織りかけのタペストリーは揺れ
褪せた思い出の匂いだけを運んでくる
擦り切れた時間がどれほどあっても
何も作り出せないことは知っている
どんなに悲しい映像ばかりでも
捨て続けることは出来ないはず
綴られたノートを読み返し
昔の君を取り戻して欲しい
ひたすらスクラムを組んでいた
あの頃のような君を
00/05/28
乾いた大地に
容赦のない太陽を見つめる瞳に
視線を動かす力は残っていない
一杯のスープがここには来ない
一握りの穀物もたどり着かない
渇き切ったこの黄色い大地に
申し訳の雨などいらない
道が閉ざされるだけ
道が流されるだけ
差し延べられるほんとの愛だけが
彼の瞳を唯一照らすこと
みんなみんな知っているのに
00/05/24
願い
うねりに飲み込まれる夕刻
あなたからのコールはなく
行き交う仮面の群れは
沈む逆光にますます鈍く
知らぬ音は私ではなく
あなたは自らさらに深く
割れた仮面は流れに遊び
飛び石を跳ね消え行く
闇の二人は地下に這い
隠れた明かりを求めた
ゆれるグラスはこぼれ落ち
ずるい二人は忘れた振りをする
不確実な時間の重なりの中
崩れたパンをむさぼる
満たされるは望まないが
より高き心は願いながら
00/05/24
波打ち際
人の造った波打ち際に
流れ着いた短い手紙
誰も居ないから
いつまでも漂っている
私宛ての筈もないけど
そっと拾ってみる
どこか懐かしい言葉が
母に似て温かい
でもやっぱり私宛てじゃない
そっと波に帰そう
00/05/24
大道具
頬のぬくもり忘れた
やわらかさも忘れた
もいちど逢いたいなんて
思っても、ただそれだけ
逢えばまた、おなじこと
冷たい雨に打たれたからって
何が始まるわけでもない
暗い部屋に閉じこもっても
明日に陽が射すわけでもない
もう5月だというのに
こんなことしか思いつかない
舞台の袖にも春は来るというのに
00/05/24
白いシーツ
寄り添う温もりだけで
言葉なんていらないと
あなたは小さく枕を動かし
白んだ空に心を向けた
そんなに近くを見ないでよ
息が苦しいよ
そんなに遠くを見ないでよ
夜が明けちゃうよ
00/05/24
だから
それなのに私はまだあなたを知らない
それだから私はあなたに近づく
いつからかあなたは笑い始めた
いつまでもあなたは泣いていたのに
こんなにもあなたに逢いたい
こんな日にはあなたにいて欲しい
もう一度あなたを抱き寄せたら
もう二度と後悔しない日々
00/05/24
底から
まあるい波は小船を包み
どんより雲の隙間からは
こぼれた白い月が私を包む
水平線に分度器を当てたら
見知らぬ船が沈んで行った
深海に潜む妖しい魚の
背びれに指を噛まれたら
私の星の息づかい
00/05/24
花びら
とげが刺さると、とても痛いから
強く握るのは止めようと思った
でもあんまりふわっと持ったから
橙色の素敵なバラはすり抜けた
花びらが何枚かちぎれて散らばった
踏まれる前に、も一度拾おうか
消し忘れた線が少し気に掛かるから
00/05/24
ほそい雨
ほそい雨が静かに傘を濡らした朝
参道の石畳は桜に染まり
季節の過ぎるを教えてくれた
跳ねたしぶきはあしたを縁取り
まだ見ぬ人を映しだす
00/05/24
ルノアールに逢いに
どこで降りればいいのか
わからないでバスに乗った
すごく混んでたけど
今日は日曜日。
ひとつの吊り革につかまった
カーブでゆれて楽しい
「次は美術館前」
ここだね
君に逢えるね
00/05/12
その為に
時計が壊れたよ
羽もちぎれたよ
傘もやぶれたよ
きっと重い体で
無理して飛んだのが
いけなかったんだ
すべてを覆った鉄の板の
すべてのボルトを取り払う
早く治さないと
週末の午後6時
降り返るあなたの
笑顔に逢えないから
00/05/12
半透明
地下鉄の窓がゆれている
文庫本は左手の中で閉られ
まなざしだけが明かりを追った
きしみながらドアが開き
定まらない視線達は消え去り
希薄な息の重なりだけが
いつもの闇を振るわせる
静かな叫びの横には
さびた鎧の戦士が立って
ベンチの私をにらんで消えた
00/05/12
憂いのペン
うららかな午後、春
文机の引出しの隅に
なくした筈のペン
思いを綴った果ての便箋に
恐る恐るしたためた
悲しいインクの匂いは
指を伝い瞳を振るわせ
文字はにじみ、藍色。
セピアの心に広がる
指を使って青空にした
イチゴで光も描いた
タンポポの茎であなた、描いた
00/04/26
ぽっかり
マッコウ鯨が空に浮かんだ
自由な心になりたくて
やさしい心を育てたくて
そして、みんなの悲しみ
消し去りたくて
00/04/26
なみうちぎわ
そよ吹く風を道連れに
珊瑚の浜辺で流れる時間
うたたね髪をそよがせながら
寄せる波から溢れる泡粒
君への思いのごとくに悲しく消える
尖塔にたたずむ海鳥達は
遠くの空に恋して悲しく
苦い涙で明日を見つめる
絶え間ない波のふちに足を浸し
そよ吹く風にうながされ
遥かの地平に時を投げたら
消えた乳白色を目が追っていた
00/04/26
これから
もう、ひたる時間もない
君の手が冷たいんだ
あそこの公園で焚き火にあたろう
肩には私が外套をかけるから
あったまったら汽車に乗るよ
そして、懐かしい街に着いたら
瞳に映る星を数えて
あなたと朝まで夢を語ろう
もう迷わないと決めたから
たじろぎながら昇る太陽も
やっと背中を後押ししてる
00/04/10
曇りのち快晴
あなたが支えてくれました
弱りきった思い出心を
優しい笑顔で覆ってくれて
こんなに大きくしてくれて
青い空だけ見つめていれる
涙の星はもう忘れます
あなたに逢えてよかった
今日は素直に言えそうです
00/04/10
春の心
裸足で掛けたくて靴を散らかす
浅い春の陽射しはあなたと交わり
ほのかに温まったさざ波にさえ
私はなす術もなく転がる
崩れた砂は海に帰り
沈んだ足を巻き込むから
乾いた心も帰したくなり
からい水を流し込んだ
00/04/10
衝撃
意識がなくなり
鈍い痛みが走る
記憶が途切れだし
あなたが薄らぐ
白日の衝撃
時に癒しを乞う
00/04/05
争い
息が固まり
冷たいコンクリートを
覆いつくす
ビルの地下で子供達が凍えた
どんな顔だったのだろう
白い戦車が脇をすり抜ける
私の知らない世界で
00/04/05
揺れる想い
それでは今の光は
その中に入ることを許さず
よどみを強いるため
やさしさを消してしまったのか
それなら過去の悲しみが
どんなに迫っても
静かに受けなければならないのか
ならば流れに足をひたし
溜まった泥土を巻き上げず
空が燃えるまで見上げていよう
それでもまったくの知らん顔なら
すべての苦悩達をたぐり寄せ
私自身を粒に変え、埋め込み
そして、かなたの闇に投げ入れて
揺れる光にたどり着きたい
00/04/05
カフェにて
ミルクセーキを飲んだあなたは
白いリップをつけたみたいで
とぼけた顔に気づいていない
外の景色はあわただしく
宅配ピザが信号に引っかかる
点滅にあわてるミニスカート
季節はずれの赤い花は
ブロンドのストレートを包み込み
かすかな風でグラスを染める
いつになくおしゃべりなのは
あなたの落ち込んでいるしるし
すべてを受け入れ笑顔をあげる
00/03/15
窓辺
3月の陽だまりは心地いい
気の早い蝶が花を探してる
私はこのまま椅子にもたれ
冷めかけの紅茶を飲んでる
そして隣できみはうたた寝
00/03/15
静刻
雲は降り、陽が昇る
闇が去り、朝が満つ
眼を細め、耳を澄す
鳥は鳴き、森も歌う
君は立ち、我も歩む
00/03/15
カクテル
あなたの好きな金曜の夜
カウンターには赤い灯で
肩越しの香りに落ちる人々が
グラスを舐めている
吊るされたモニター画面の
恋のビデオに音はなく
字幕だけが移り流れる
何度も見たストーリー
あなたが知らないエンディング
今夜は素敵な恋をあなたと見つめる
00/03/15
春風
たとえば森に分け入って
雪のポストを見つけよう
落ち葉に書いた希望のことを
春の風にゆだねてみたい
行きつく先は知らない
配達人の気まぐれで
流れる雲の消印を
解読できるあなたの元へ
届くことを信じてる
00/03/15
あなたへ
閉ざされた心は悲しいよ
そぼ降る雪が笑ってる
私も友に言われたよ
少しの勇気、出しなさい
昔のことは知らないよ
だから今日を大事にね
もうすぐ春が迎えに来るよ
そぼ降る雪が眠るころ
00/03/15
知らないけど
一粒も解けずに重なる
凍てつく雪の帰り道
切れかかった街灯に照らされた
寂しがりやのひとり言が
かすかに聞こえる
どこからだろう
「春はどこ」って言っている
たぶんそう言っている
知らないあなたに逢いたくて
「春はそこだよ」って小さく
でもはっきりと闇に伝えた
凍てつく雪の帰り道
解けない雪がまつげに降りた
00/02/21
たとえば
たとえばあなたが悲しみに満ちたとき
あったかなココアを作ってあげる
たとえばあなたが出口を見失ったとき
そっとライトで照らしてあげる
そして
たとえばあなたが私を愛したときは
小さなろうそくを立て
オレンジの炎を灯し
あなたの瞳をみつめよう
長い旅になるかもしれないから
あなたの瞳の奥をみつめよう
からめた指はほどかずに
多くの言葉も語らずに
ただひたすらあなたをみつめていたい
00/02/12
乾いた雪
終わってよかったとあなたがいうから
なんとなく納得していた
始まりのときも雪が降っていたから
ちょうどいいのかもしれない
こんな雪の夜の
こんな都会の隅っこで
涙が流れてくれれば
もっと楽なのかもしれないけれど
00/02/12
あの日
こうしていると昨日のよう
すべてのことが苦悩のよう
多くを語らなかった人
あなたに出逢った遅い春
何も語らなくなったあの日
こうしていると悲しみの時
あなたの心、見つめてなかった
あんなにも愛したこと
あなたの爪の形も忘れた
00/02/12
知らない季節に
心静かに夜が明け
開け放つ窓からは
深深と白い雪
想い出のないこの季節が
今の私にとって唯一の救い
息でくもるガラスに
あなたが重なっても
あわてないで忘れます
春にはまだ少しだけ
時間があるから
00/01/29
虚ろな雨の午後
悲しい瞳は嫌いじゃないけど
怒った瞳も嫌いじゃないけど
遠くを見つめる瞳は嫌いです
もうすぐ最後の季節なんですね
あなたの知らない町で恋をして
私も流れる雲を追いかけていたい
あなたの知らない恋人に抱かれ
私も流れる雨をなぞっていたい
あなたが突然切り出すだろうの
どんな言葉にも悲しまないために
00/01/29
油絵
時が過ぎて形は薄れ
積んだキャンバスも色あせた
乾いた絵の具はひび割れて
瞳を細かく濁らせる
重ならない絵の具は剥がれ落ち
すべてを最初に戻してしまう
あなたを見つめた記憶だけでは
もうどんな色も作れない
朝焼け色も混ざらない
そっと伏せ、部屋の隅っこに置く
00/01/29
終着
駅のホームは冷たい
足元からすべてを剥ぎ取っていく
まつげが凍って目が開かない
指でつまんで解かしてみたら
それはまるで涙のように頬を伝い
雪の上でふたたび凍った
あの日から列車は止まらなくなった
それでもただひたすら立ち尽くし
突然現れては消える赤いライトを
遠い記憶に重ね焼きつけた
悲しいほどに白く清いその中で
00/01/29
ラベンダー畑をまわり道
うねりを見おろす
雪にうもれたラベンダー畑に
初夏の想い出はもうない
ひとり乾いた花を持ち
かすかな香りが心地いい
楽しくなって駆け出すも
なんどもころぶ
またうねりを見つめる
00/01/29
深夜の街
黒い雨を寄せ集め
消えた過去に微笑み
悪魔のささやきに耳を貸し
汚れた手をポケットにしまう
00/01/29
言霊
あなだにだけは伝えたくて
微笑む天使の心の清らかさを
透き通っていく空気の美しさを
燃えるワイン色の炎の激しさを
そしてその影に揺らめく私を
00/01/29
凪
愛は頼りなくて
風が止んで
小船を漕ぎ出し
日ごと
君への想いが薄らぐ
涙の痕は波に溶けだし
珊瑚の砂を更に白く染め
マングローブの森に帰り着く
00/01/19
乾季
乾いた空気を肌にぬり
砂の外とうを身にまとう
そしてひたすら闇を待つ
閉ざされるを拒み
群れなすを拒む
そして常にひとり向かう
月の無い夜に
草原の淵をさ迷いながら
見えぬ獲物を嗅ぐ時
拭えぬ記憶をたどり
隠した喪失をさぐりあてる
00/01/14
白い月
ビルはほとんど夢の中
無表情に慣れた朝の街並み
闇を開いて日は昇り
束の間の静寂を私に置いて
白い月は行き場をなくし
誰も知らずに天を飛ぶ
想いの先にあるものは
昨日の私の知らぬこと
昨日の君に尋ねたら
捨てた未来は語らずに
凍ったペンを握り締め
溶けた紙に押しつぶす
冷めたカップをかき回し
すぼめた心に流し込む
取りこぼした時間達は
曇った窓にからみつき
忘れる振りを許さない
99/12/29
快晴
突然に潤んだひとみは
私の深くに突き刺さり
答えの息を詰まらせ
ただ遠くを見つめてる
探る間に君は席を立ち
そして振り返り
知らぬ気の笑顔で
私の病みのすべてを救った
永く降った雪が陽を反射し
澄んだ瞳にキラキラ樹々を映し出す
99/12/29
天使のいる風景
雪に埋もれた小川の隅っこで
君は零度に凍った水を飲み
空から落ちた赤い実を食べた
昔生まれの木立の上では
遊びを忘れた子供が集い
明日の話に夢中になって
朝が来たのも気づいていない
日の当たるベンチに腰をかけて
いつも通りの道すがらの私は
そんな見慣れた景色が不思議に遠く
生まれたばかりの光に遊ばれ
今日も飛べない空を眺める
99/12/29
寛容
水平に吹く人を受け入れ
粒を肌に貼りつける
それは少し成長し羽ばたき
私を未来に連れていく
あるいは過去に連れもどす
しばらくで端から剥がれ落ち
積もった白の仲間にまぎれ消える
もしくはひとり孤独に根を下ろす
99/12/29
そこに
旅の支度を片づけていると
鞄の底に鍵を見つけます
古い洋館のそれのようでもあり
海賊船の宝箱のそれのようでもあります
捨てることも出来ないで仕舞い込みます
私の机の中はこんな鍵達であふれています
99/12/14
古恋屋
要らなくなった恋引き取ります
お引取り料はその恋の重さ深さにより
変動しますのでご了承ください
ただいまキャンペーン期間中につき
ご成約のお客様すべてに
恋の記憶自動抹消装置
「ラブポイDX」(非売品)を
プレゼントしています
皆様のご来店を心より
お待ち申し上げております
99/12/14
夜の猫
赤いラインの虚ろ姿が
淡い月に遊ばれて
地上の光を追い続け
近づく影を食べつくし
午前3時にさかのぼる
99/12/14
偽りなし
あだしナルシシストは
今宵も街に徘徊し
流れる道に腰をかけ
消え返る刻に想い邪なく
慎ましやかな人になり
99/12/14
病室にて
初霜の朝に光りしは
細き指よりこぼれたる
うたかた人の涙の凍りて
藍をうすめてにじませて
白き衣を飾るがために
99/12/14
夏の日
苦しみを置き忘れたあの場所へ
あなたもきっと今なら帰れる
優しい嘘だけが一人歩きしたあの夜に
99/12/09
ストーブのある部屋
カーテンごしの柔らかさを
薄目でいるとまぶたの裏に
暗い朱色が焼きついて
季節はずれの蛍のように
鼓膜の中で飛び跳ねて
小雪ごしのあたたかさもまた
先の季節を暗示して
ぎざぎざの残像を瞳に落とし
頬にあたってしずくに帰り
あなたごしの優しさすべてを
小指の先に寄せあつめ
くちびる淡く書き写し
はがれる前に噛みしめる
99/12/09
もうろう
光を閉ざした瞳から
涙がほろほろ零れても
ハンカチが見つからない
見つめるまなざしを
優しく抱きしめるすべが
どこにも見つからない
赤い日がベッドを焦がすころ
あなたは静かに伏せながら
聞こえない言葉を述べ連ね
交える小指は最後の約束
99/12/09
凍土
秋霜及びて枯れ果て
夏の営み語るを忘れ
混沌たる心の有り様
今まさに静まらんと
土中の虫けら諭すに
われ身じろぎもせず
99/12/09
昼下がり
空を見上げて歩いていたら
静かに遮断機がおりていた
いつの間にかあなたは
向こう側で手を振っている
電車が右から左から交差した
99/12/09
枯眠る
冬野を渡る風に
色あせた麦の芽が哀しい
はらはらと霧氷
舞い落ち刺さる
遠くからの煙が
霧と重なり景色が消える
99/11/24
マッチ
あなたを暖められない
湿ったマッチ
風にさらしてみたら
ぼろぼろになった
困ったので舐めてみた
舌が朱色になったけど
うまく固まった
しゅっと擦ってみた
笑顔が浮かんで
ほわっとなった
99/11/24
冬近く
最後の一葉も今はなく
のびる空はやけに冷たい
流れる雲は冬を待ちわび
季節を終わりにいざなって
知らない街に飛んでいく
依然動かぬ私には
何もないこの時が
唯一心に優しくて
想いをここに重ねつつ
願いをここに刻みつつ
99/11/24
あなた
改札口でくちづけて
あなたは何度も微笑んで
私は小さく手を振って
涙を必死に我慢した
あなたが消えた人込みで
半べそかいて立ち尽くし
濡れた唇触れてみる
あなたのぬくもり消えぬ間に
あなたのやさしさ消えぬよに
99/11/17
知らぬ間
あなたの悪戯な瞳は
何時も私の周りで渦を巻き
追い付けないまま弾け飛び
少しばかりのこころの隙に
すすっとすすっと忍び込み
私のすべてを見透かして
知らん顔で帰ってく
99/11/14
夜の風景
眠らぬ街にたどり着き
止まぬ点滅ながめても
病んだ君には行き逢えず
くすんだ星に笑われた
眠れる森に帰り着き
震える音が教えても
まだ見ぬ君には行き逢えず
老いたミミズク笑うだけ
99/11/14
あなたと
恋が恋でなくなる時の音が聞こえる
ひとりの夜は静かに過ぎて悲しくて
静かな響きの静寂
それは闇の音
いちばん 嫌い
いちばん 落ち着く
哀しい音
99/11/14
白い午後
真っ白な便箋を開いて
いつものように
あなたに想いを馳せる
「何から書こうか...」
したためる言葉を嬉しく迷い
笑顔のあなたが浮かんでる
真っ白な心を開いて
いつものように
あなたの光を誘い込む
雲の切れ間からそそぐ光で
少し冷えた私を満たすために
99/11/11
夕暮れ
森の帰り道
あなたが笑うから
つられて笑った
これ以上ないって笑顔で
あなたが駆け出したから
私も負けずに駆け出した
琥珀色の空の下
街も笑ってた
99/11/07
見知らぬあなたでなく
めぐり来ないはずのあの季節が
今年は目の前にぶら下がってる
出逢えてよかったと想い続けた
忘れたはずのあの季節
熱い高まりもなく
湧き出る涙も何もない今
ただ通り過ぎるだけのあの季節
まだ見ぬ季節にめぐり逢いたい...
99/11/07
呪文
あなたをさらおうと決め
電車に飛び乗った
まだ難しい呪文は覚えてないけど
何とかなるさとたかをくくって
出来損ないの歌を刻むより
あなたの距離を縮めたい
夜の帳に街が包まれるその前に
あなたを瞳に収めたい
もうすぐ腕の中...
99/11/01
晩秋
深紅染め掛けたるさま
秋の空を悲しく照らす
かえで萌ゆるがごとし
99/11/01
風、コンタクト。
張り詰めた空気が
ゆるやかに透き通り
風が頬をかすめゆく
凍てつく大地が
奥の底まで染み込んで
君想う心に突き刺さる
昇る陽射しに君を重ねる
99/10/29
目を閉じて
乾いた時間を見つけたら
あなたのくれたゆるやか心
小箱を開けて取り出そう
99/10/29
暮色
肌にからんだ
草いきれの森
遥か消え失せ
樹は錦織成し
今まさに紅葉
肌を焦がした
灼熱の陽射し
静かに遠のき
柔らかな秋日
今まさに落陽
君のすべてが
風に吹かれた
99/10/29
その時
思いきり駆け出したい時がある
「はぁはぁ」と息を切らして
すべての細胞達を入れ替える
自然と涙が溢れてくる時がある
流れる雫は拭わないまま
心の奥まで落とし込み蓄える
あなたの声を聞きたい時がある
優しい口からこぼれるささやきを
鼓膜のひだのひとつに刻み込む
99/10/19
ふたり
閉ざされた
虚ろな瞳は
君を遠ざけ
わからない
言葉の束が
君を悩ます
目の前には
笑顔を作る
優しい君が
99/10/15
黎明
木漏れ日が朝を割り
刺激され始めた乳白色
裂けた小枝が再生される
溢れた樹液がほとばしる
鳥は眼を見開き
羽を震わせ
山裾をすり抜けた
99/10/15
あの日
秋の冷たい雨に打たれながら
あの日の君の
笑顔を思い出しています
「お見送りの方は白線の内側まで..」
そんなアナウンスに
照れ笑いしながら君は
発車のベルが鳴るのに くちづけ
99/10/10
空へ
らせんの階段に戸惑いながら
みえない足元におののきながら
ひたすら駆け上がる
こぼれる直線が
胸をかすかに照らし反射し
闇に落ちる
あふれる曲線は
腕にかすかに触れゆがみ
闇を揺さぶる
流れる汗と
軽いめまいが心地いい
もうすぐそこは君の空
99/10/06
空虚
誰が種をまいたのか知らない
いつ根が張ったのかも知らない
人が人を傷つける
死を恐れるものたちが
引き金を引いている
死にし者は物と化し
今日また烏についばまれ
乾いた波に流され失せる
誰が種をまいたのだろう
いつ根が張ったのだろう
99/09/27
秋空
明けぬ夜はないと言う
止まぬ雨もないと言う
空気のような存在と人は言う
あうんの呼吸と人は言う
悲しみに泣き崩れる人がいる
悲しみを糧とできる人もいる
蒼い空の下
大事なあなたと
笑いたい99/09/22
秋想
不可解な流れはうねりを増して
刹那の恋慕を押し倒し
是是非非を問い掛ける
こたえる術を知らぬまま
混じり溶け合い
深い虚無の色を垣間見た
君はまもなく朱に染まる
邪に覆われたこの森も
まもなく萌える朱に染まる
99/09/20
深淵
湧き出す泉で潤しながら
小雨の森をまさぐり歩く
小さな毒に犯されぬよう
堅い心を研ぎ澄まし
荒い息を押し殺し
赤い触手を切り落とす
祭られし神々は僅かに動き
脈打つ心を締め付ける
流れる汗は細かく千切れ
溜りの中に吸い寄せられた
明けぬ夜が染まるとき
静かな心は眠り入る
99/09/17
森の朝もや
閉じたまぶたに
夜明けの風がかさなり
あなたは乾いた唇を
冷たい夜つゆでしめらせた
湖畔の波は静かに寄せ
まもなく朱色が燃えたつだろう
あなたが旅立つまでの数時間
こうしてこのまま語らずに
ずっと瞳をみつめていたい
99/09/14
逢いたくて
時の森に迷い込み
まだ見ぬあなたを探すこと
それが昨日からの私の仕事99/09/14
視線
両腕をすり抜けるため
しなやかに濡れる
瞳に吸い寄せられながら
体がこわばっていく
優しさを忘れた心が
今あなたにすべてをさらけ出す
99/09/14