雨粒の物語の始まりです・・・


    ビールのとき


  ドイツ製で蓋つきのビアジョッキに収まっ
 た。でもそれは陶器なので外の景色が見えな
 かった。なにやら楽しげな雰囲気だけは感じ
 られる。アコーデオンが鳴っている。ステッ
 プ踏んでる音もする。陽気な歌声もあふれ出
 た。さぁ、今宵をお楽しみあれ。

00/09/16


   飛行機雲のとき


  次々に私たちは生まれる。そして整然と繋
 がり、人々は驚き小さく声をあげ見入る。夕
 日に映えると格別に美しい。。。それでも、
 長くは続かない。徐々に色のない空に溶け込
 み、無邪気な雨粒の子供に戻る。のびのび生
 きてたあのころに戻る。
 

00/09/16


   大河のとき


  既に大河は濁っていた。これほどの河にな
 ると怒涛という言葉が当てはまる。うねりが
 岩に砕けたとき、私はますます小さな存在で
 あることを意識せざるをえなくなる。それゆ
 え流れに留まらせてはもらえない。底に沈ん
 だり、波の先端に出たりしながら下流を目指
 す一員であり続ける。二度と見ることもない
 景色を焼き付けることもなく、ためらいの暇
 など微塵も待つこともないまま。。。

00/07/28


  さざなみのとき 


 砂粒を磨きながら足元に近づいていく
 あなたの指先が埋まっていく
 私があなたを埋めていく
 少しずつ埋めていく
 なのにもうすぐ引き潮
 あなたが気づく前にいつも引き潮
 

00/07/01


     見えない涙のとき  


 今、頬を伝っています。きっとあなたは気づいている。

 「ごめん・・」とあなたは言う。

 今更遅いかもしれないよ。

 だって私は頬から離れ床に向かっているし、

 彼女の手からも受話器が離れようとしているのですから。。

00/06/26


    噴水のとき     


  じりじりと太陽が照りつける午後の公園。

 人影もまばらな丸い噴水。私の仕事は揺らぐ

 優しい風を伴いながら小さな虹を空にかける

 こと。木陰のベンチの君の瞳には映っていま

 すか?・・少し虚ろな感じが気がかりです。

 ただ熱さに疲れているだけならいいのですが。

00/06/24


     森の湖のとき


霧粒が遊びに来てくれた。湖面を覆いながら私に言う。

「こんな退屈なところ、そろそろ飛び出したら?」。。

「そうだね・・」とあいまいに返す。

君にとってはどこへも流れない湖の水なんて、どうしようもないくらい

嫌なところかもしれない。。。けど、、

「ここを出て行くと君に逢えなくなるじゃないか」

今度この言葉、話してもいいかな?
 

00/06/22


   ワインのとき


  瓶の中に暮して既に22年が過ぎようとし

 ていた。毎日暗い部屋で成熟を繰り返し、グ

 ラスに注がれる日のために紅色に磨きをかけ

 てきた。そして今夜、コルクが抜かれるとき

 テーブルには花が飾られ、キャンドルの炎が

 かすかに揺れている。大きめのグラスで輝く

 私。何人かの仲間は蒸発して、グラスを香り

 で満たし始めている。私は飲み干されそうで

 ある。舌に触れる瞬間の快感。。。
 

00/06/16